【講師】 |
『《講演B》認知症の方を介護する者として伝えたいこと』
“介護”から“支援”へ発想転換
認知症になったというだけで、以前の自分と違った扱いをされる。何もさせてもらえない。何を言っても聞いてもらえない。いつも哀れみの目で見られる。叱咤(しった)激励される。誰の役にも立てない。子どものように扱われる。自分は自分でなくなったのか。怖さ、むなしさ、悔しさ、不安。自分がだんだん壊れていく…。認知症の方は、そんな思いでいるのです。とてもつらいのだと思います。
私たちは認知症の症状にばかり目がいってしまいがちになります。物忘れが激しい。時間や場所が分からない。うまく洋服を着られない。落ち着きがない。帰宅願望が強い。すぐ外に出て行く。言葉がしゃべれない。すぐ大声を出す。「あんた私をばかにしよっとね」と暴言を吐く。
そんな現状を振り返り、利用者を人として見つめ直そうと考え、まず利用者の声をじっくり聞いてみようと、1対1で話をしてみました。すると、利用者の思いを私たちがいかに知らなかったか、ということを痛切に感じました。
利用者と介護者の思いには、ずれがあったのです。このずれが不適切なケアを生み、利用者のさまざまな周辺症状を生むといわれています。どうせできないのだからと、介護者が自己満足の過剰介護に走ってしまうと本人は不満な感情を持ち、やがて不安感や不快感が増大し、居心地が悪くなり、最後に爆発してしまう。大声を出す、暴力を振るう、外に飛び出すなど─。
私たちは、利用者が主体的に決めてもらう方向に、発想を変え、従来の“介護"という考え方を捨て、“支援"という考え方でやってみようと思いました。
道具が使えないなら、もっと単純な活動にする。文字が読めるなら視覚に訴える。場所が分からないなら、分かるように貼り紙を使う。その結果、利用者はうまくできないだけで、本質的には自分たちと何も変わらないことを私たちは知りました。
私たちが実感した介護のポイントは、それは“聞くこと"でした。表情や態度、行動など、あらゆることを五感で感じながら、穏やかな声で話しかけ、関わり合いながら声を聞くことでした。そのとき大事なことが“待つこと"なのです。介護者がじっくり待つことで、本人が自ら自分の思いを徐々に表に出すことができるようになります。これがとても大切なことなんです。
ご家族が関わる場合も基本的には同じなんですが、日々介護しておられるご家族が認知症の方と向き合うためには、心に余裕がないとそうはいきません。たまには専門職に甘え、ご家族自身もリフレッシュできる時間を持つようにしてください。