肥後医育塾公開セミナー

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平成23年度 第3回公開セミナー「認知症を考える」 〜医療・介護・地域支援のいま〜

【講師】
熊本大学医学部附属病院神経精神科講師
橋本 衛

『《講演@》認知症とはどんな病気か 〜症状から診断、治療まで〜』
過度に恐れず正しい理解を


   物忘れには通常の老化によるものと、病気による異常な物忘れがあります。
 病気による物忘れは出来事そのものを忘れてしまうことが特徴です。例えば3日前に外食をした場合、何を食べたかを思い出せないことは健常者でも起こり得ますが、外食したこと自体を忘れているならば、認知症が強く疑われます。また病気による物忘れは半年程度で進行し、本人に自覚がないなどの特徴があります。
 認知症でみられる症状はさまざまですが、大きく2種類に分類できます。
 1つは以前できていたことができなくなる症状で、中核症状と呼ばれています。食事をしたことを忘れる、家族の顔が分からない、道に迷う、話が通じない、尿便失禁─などがここに含まれます。
 もう1つが認知症になることにより新たに加わる症状で、周辺症状と呼ばれており、徘徊(はいかい)、怒りっぽさなどの精神症状、行動障害が含まれます。中核症状は治療ができず周囲からの援助で対応するしかありませんが、周辺症状は適切な治療により改善が期待できます。
 認知症を引き起こす病気は数多くありますが、それらは治療の観点から3つに分けることができます。
 1つ目は、治る認知症で、その代表は正常圧水頭症です。脳脊髄液が脳の中に異常にたまり、脳を圧迫することにより引き起こされますが、手術により改善します。
 また薬の副作用で認知症になることもあります。抗パーキンソン病薬や睡眠導入剤、頻尿・尿失禁治療薬、利尿剤、胃薬などには注意が必要です。
 2つ目は、治らないが進行しないようにできる認知症です。その代表は血管性認知症で、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因です。高血圧、糖尿病などの生活習慣病の治療・予防を行ってください。
 3つ目は、完全に予防できず進行する認知症です。代表は認知症患者の約半数を占めるアルツハイマー病です。脳の神経細胞が壊れ、10〜15年で寝たきりになり死亡します。現在は4種類の治療薬があり、薬物治療で進行を遅らせることができますが、症状は緩やかに進行していきます。
 認知症は誰にでも起こり得る病気です。過度に恐れずに向き合うためには、認知症を正しく理解することが大切です。認知症の人が安心して暮らせる社会を目指し、医療、介護、行政、地域社会がともに取り組みを始めているところです。