【講師】 |
『《基調講演1》人生を支える在宅医療 〜出前医者20年の実践から〜』
最期まで支える姿勢でフットワークよく対応
1990年ごろ、『「寝たきり老人」のいる国いない国』(大熊由紀子著)という本が出版されました。「デンマークには寝たきり老人がいない」といったことが書かれており、私は驚きと疑いを持ちながら、デンマークに行きました。すると、本に書かれていたことは本当だったのです。現地の医系技官から、「日本では、高齢者が食事を取れなくなっても、チューブで栄養を送ったりするから寝たきりになるんだよ」といわれました。私はそれ以来、日本の医療の在り方に問題を感じるようになりました。
年齢を重ねて一番厄介なのは、足腰が弱り、移動する能力が落ちるということです。病院にも行けなくなります。要介護状態となっても、往診や訪問看護があれば、患者さんは在宅で療養することができ、自宅で最期を迎えることも可能です。
それから私は栃木県で20年間、出前医療をやってきました。これは、かかりつけ医の誇りとしてやってきたのです。
「医療」とは、広辞苑には「医術で病気を治すこと」とあります。しかし医療の役割は、病気を治すことだけでしょうか。三省堂の国語辞典には「しかるべき機器や設備を有し専門医を置く機関が、健康診断や病気の予防対策を行ったり、患者の治療に当たったりすること」とあります。ところがこの概念では、在宅医療は見えてきません。
在宅医療とは、暮らしの場で通院ができない人たちにフットワークよく医療を提供するとともに、患者にとって居心地のよい場所で、その人を最期まで支えるということです。現代医療は「病気を治す」だけでなく「患者の活動を支える」役割を持つようになったと思います。ですから、特に在宅医療では「患者さんが自分らしく生きていくための医療をどう届けるか」の視点が重要。また今後は、グループホーム(集団生活型介護)などの場を在宅と捉えることもあるでしょう。
現在の在宅医療の質は、病院での医療に比べ遜色ありません。医療機器や介護機器が進歩し、薬もいいものがあります。介護保険で、入浴や通院などいろんなサービスも受けられます。緊急通報システムや認知症の見守り、虐待防止ネットワークなど、地域にはさまざまなネットワークができています。携帯電話などを利用した遠隔医療も簡単にできるようになりました。21世紀は在宅医療の世紀だと、私は思っています。