肥後医育塾公開セミナー

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平成22年度 第1回公開セミナー「脳と頭頸(とうけい)部のがんを考える」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部脳神経外科学分野教授
倉津 純一

『脳腫瘍について〜決して稀(まれ)な病気ではありません〜』
症状がないケース増加 薬や放射線装置も登場


   「脳腫瘍」とは、脳だけでなく、頭蓋(とうがい)の中にできたすべての腫瘍を指します。脳は、厚い頭蓋(ずがい)骨に守られ、その内側で硬い髄膜に包まれており、脳脊髄(せきずい)液に浮かんだ状態にあります。
 脳腫瘍は、頭蓋内の組織から発生した原発性と、ほかのがんが脳に転移して起きる転移性に分けられます。県内の脳外科で「転移性脳腫瘍」と診断された患者さんの統計資料を見ると、肺がんからの転移が約6割と最も多く、次いで乳がん、大腸がんの順でした。
 原発性脳腫瘍で最も多いのが髄膜に発生する髄膜腫です。髄膜腫のほとんどが脳と頭蓋骨の間に発生する良性脳腫瘍で、全摘出することで治癒可能です。しかし腫瘍が大きくなり脳を圧迫すると、発生部位によって、けいれん、運動まひ、言語障害などの症状を伴うこともあります。
 脳は、神経細胞と、神経細胞を守る「グリア細胞」からなり、グリア細胞にできる腫瘍を「グリオーマ」と呼びます。
 グリオーマは脳そのものから発生し、治りにくいのが特徴。悪性度はさまざまで、悪性度により生存期間は平均して、最短で1年、長くても10年ほどといわれる非常に厄介な悪性腫瘍です。
 また、脳神経に発生する腫瘍を「神経鞘腫(しょうしゅ)」と呼びます。神経鞘腫は、神経を取り巻く鞘(さや)から発生する良性腫瘍です。
 このほか、ホルモンを分泌する脳下垂体にできる腫瘍を「下垂体腺腫」といいます。腫瘍が大きくなると、近くの視神経が圧迫され、視野が狭くなります。成長ホルモンや乳汁分泌ホルモン産生細胞から腫瘍が発生すると、いろんな全身異常を合併します。
 最近はCTやMRIなどの検査機器が多くの病院に設置され、脳の検査を受ける機会が増えました。それに伴い、症状がないにもかかわらず、脳腫瘍と診断されるケースも増加しています。これを「無症候性脳腫瘍」と呼んでいます。その7割は髄膜腫です。
 脳腫瘍という診断を聞くと深刻になりがちですが、脳腫瘍は決してまれな病気ではありません。欧州のある地方で70歳以上の女性全員にMRI検査を行ったところ、約30人に1人が髄膜腫という調査結果が出ています。髄膜腫の場合、腫瘍は平均して年に2_程度しか大きくなりません。
 ただ無症候性脳腫瘍と診断されても、手術が必要かどうかは医師とよく相談してください。
 脳腫瘍の治療は、手術による摘出が基本ですが、医療技術の進歩に伴い、脳腫瘍に有効な新薬や放射線照射装置も登場しました。そして転移性脳腫瘍もかなりの確率でコントロールできるようになりました。
 今後もより安全で的確な医療を目指し、治療困難な脳腫瘍に対しても優れた治療法を確立していきたいと思います。