肥後医育塾公開セミナー

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平成22年度 第1回公開セミナー「脳と頭頸(とうけい)部のがんを考える」

【講師】
癌研究会有明病院頭頸科部長
川端 一嘉

『耳鼻科のがんについて〜話せなくなる、食べられなくなる、容貌が変わる…その前に〜』
切除手術で生活に支障も 食道がんと重複 高頻度


   耳鼻咽喉(いんこう)科では、脳より下、鎖骨より上の範囲に生じたがんを「頭頸部がん」と呼びます。ここは、言語・聴力・味覚・嗅(きゅう)覚などの機能に深く関係する部位であるため、切除手術をすると、これらの機能が低下、または失われ、たちまち生活に支障を来してしまうことにもなります。さらに、手術後は容ぼうが変わることがあるかもしれないという、大変怖いがんです。頭頸部がんの「5年生存率」は、がんの発生場所やタイプによって違いますが、ステージ1と2の「早期がん」で約80%、ステージ3と4の「進行がん」で約40%が目安といわれます。
 頭頸部で多いのは、口腔(こうくう)がん、咽頭(いんとう)がん、喉頭(こうとう)がん、甲状腺がんの4つ。「悪性リンパ腫」というリンパにできるがんもあり、その8割が頭頸部で発見されています。また頭頸部のがんと食道がんとの重複が高い頻度で見られます。診断は、口腔では舌や周辺の粘膜の状態を見たり触れたりして行い、咽頭や喉頭など、のどの奥は、細いファイバースコープを通して患部を確認します。頭頸部のがんはこれだけで、病院に行ったその日にがんかどうか診断できることも少なくありません。そして、がんであることを裏付けるために細胞診や組織検査などの病理検査を行います。さらに、病気がどの程度広がっているかを調べるため、CTやMRI、超音波(エコー)、PET―CTなどの画像診断を行います。
 頭頸部のがんは症状で分かることがあります。喉頭がんは声帯に多く発生し、1mm程度の腫瘍でも声が変わります。この段階で発見されれば早期で、まず治ります。一方で症状が出にくいがんもあります。食道とつながる下咽頭にできたがんは首のリンパ節へ転移し、その腫れによって初めて異常に気付き、咽頭のがんが発見されることも珍しくありません。のどに違和感がある、つばに血が混じる―などの症状があれは、早期に病院を受診してください。
 頭頸部がんの治療は、放射線治療、手術、抗がん剤による化学療法の3つが主で、それらを患者さんごとに最適に組み合わせた治療法が選ばれます。治療の基本的考えとして、がんに対し、その部位に関連する領域の医師が協力して、より良い治療を行っていくこと、治療後のQOL(生活の質)を重視しているのが最近の傾向です。つまり、手術でも放射線や化学療法を行う場合でも、がんを治すだけでなく、治療後の後遺症をできるだけ減らす方針で治療が行われます。特に手術を行う際は、切除部分の機能を保つためにも良好な再建が重要となります。ですから、耳鼻科のがんでも、口腔外科や放射線科、形成外科の医師と連携して治療を進めています。
 頭頸部がんでも今、有効な抗がん剤が多く用いられていますが、乳がんなどで既に行われている、がんの増殖や転移にかかわる特定の部位を選んで阻害する薬剤を使った「分子標的療法」も、頭頸部がんに用いる準備が進められています。放射線療法も精度が上がり、がんに対する効果の向上と同時に、後遺症を減らすことも可能になってきました。しかし、どう治療法が進歩しても早期発見に勝るものはありません。