肥後医育塾公開セミナー

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平成19年度 第1回公開セミナー「病気と免疫」

【講師】
熊本皮ふ科形成外科院長
中村 猛彦

『『アトピー性皮膚炎「どんな病気?治療はどうするの?」』』
一人一人異なる対処法 時間かけて付き合って


   日本皮膚科学会が定めるアトピー性皮膚炎の診断基準には、?掻痒(そうよう=かゆみ)?特徴的な皮膚症状が体に分布する?それが慢性、長期に繰り返して経過する―の三つの柱があります。これらはすべて診察で得られる情報で、アトピー性皮膚炎は専門医であれば診察だけで診断がつきます。ほかのアレルギー疾患の合併や、遺伝の可能性については参考項目であり、不明な点も残されています。

 診断基準が幅広いため患者も多く、国内では未成年の患者数は十人に一人の割合といわれます。ただ、全体の約八割が軽症で、その多くが皮膚の成熟につれ、症状が改善するようです。

 皮膚は、周囲の環境から生命活動を守るため二十四時間働いています。しかし、皮膚の働きに何らかの弱い「素質」があると、栄養、精神状態など、体内の皮膚を支える要素が乱れたり、また体外からの刺激が強くなったり、「多種多彩な誘因(引き金)」によって環境維持機能が破たんし、皮膚炎を発症しやすくなります。これが「再発、慢性化」することで、アトピー性皮膚炎の病状が形成されていきます。

 治療は「素質」「誘因」「慢性化」の三つの問題それぞれにバランスよく対応していくことが重要です。

 「素質」には保湿剤や外用剤を効果的に用い、デリケートな皮膚の支援に努めること。女性の基礎化粧の要領で、手触りが良い、きれいな肌を保つスキンケアを目指してください。多彩な「誘因」への対策は、掃除や洗濯、換気・除湿などを行い、生活環境を整備することが大切です。ただし、誘因への対策は、生活に支障のない範囲で取り除く程度でよいと思います。

 「慢性化」、特にかゆみへの対処には、かゆみ止めの抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤などがありますが、薬剤の効果は限られており、それ以外の工夫が治療で最も難しい部分です。

 アトピー性皮膚炎の人は、かゆみなどの症状で大きなストレスを受けます。ですから、引っかいてもしからず、訴えを聞いてください。治療には周囲の精神的な支援が重要です。薬をつけることは薬の成分が働くだけではありません。肌に触ることで、癒やし、安心感などの精神的効果が期待できます。

 アトピー性皮膚炎の治療は、じっくりと時間をかけて付き合い、生活の質を重視することが必要です。一人一人治療の方法は違うため、気になることがあったら、担当医にいろいろと質問してください。ステロイド外用療法に副作用などの不安を感じている人も多いようですが、過剰に恐れる必要はありません。専門医の指示で使用すれば有効かつ安全に使用できます。ぜひ、かかりつけ医師と二人三脚の治療を目指してください。