【講師】 |
『「小中学生に適した水泳の練習法、その注意点」』
知・徳・体バランスよく
小中学生は成長の過程にあり、水泳の練習には心身の発達に合わせた指導が求められます。そのためには、?運動の原理を知る?発育・発達の成長曲線をしっかり考えた指導を行うために生理学的指針を用いる?泳法の技術を考える?身体とともに知育や徳育にも配慮する―ことが大切です。
水泳では体を水中から押し上げる浮力、体を沈める重力、空気の八百倍にもなる水中での抵抗力、水の抵抗にも負けず前に進もうという推進力(合力ともいう)、抵抗力に対して垂直に働く揚力という五つの力が働きます。
体が沈むか浮くかは水と比べてどの程度重いかという比重で決まります。水の比重は1、それよりも人の比重が重いと体は沈み、軽いと浮くのです。人の比重は呼吸によっても違い、息を吸い込んだときは1よりも小さくなるので浮き、吐き出すと1を超えるので沈みます。また比重は性差や体型でも違い、一般的に女性よりも男性、太っている人よりもやせている人の方が沈みやすいのです。
水泳で前に進むためには抵抗力と推進力がそこに加わってきます。小中学生の比重は1以下で、身体も小さいので、水抵抗は大きくありませんが、泳速度が増すに従い、抵抗力に打ち勝つ大きな推進力が必要になります。しかしながら、水泳の場合、陸上のスポーツほど大きな力を必要とせず、筋肉や関節節が未発達の子どもにも適した運動といえます。
泳法別では、上半身が推進力を発揮する割合はクロールで九割、背泳ぎで六割から九割、バタフライで六割。これら三種目の肩に対する負担は大きく、一日の練習で七千回から一万五千回も回すことになり、そのため「肩が痛い」という選手は31%もいるといわれます。一方、平泳ぎは下半身で推進力を得る割合が高いので膝が痛い選手が20%ほどいます。このように水泳の場合、陸上のスポーツに比べ、体への負担は少ないのですが、同じ動作を繰り返すので物理的負荷が肩や腰、膝など一カ所に集中してしまうのです。そのため、成長過程にある小中学生には量的負担の高い練習を与えすぎないことが傷害を予防する上で大切です。
人の発達はリンパ、神経、一般、生殖の四つの型に分けて考えられます。そのうちトレーニングを行う上で関係があるのは神経型と身長、体重、筋肉、骨の発達などの一般型の二つです。神経系は八歳で95%完成するといわれています。したがって、小中学生のころは一つの種目に専念し、たくさん練習するのではなく、多種多様な運動や経験にて発達・発育を促すこと(巧緻性を高める)がベストです。
体力的な練習を強化していくのは身長が一年で十?から十二?伸びるとき(ピーク期)を過ぎたあたりから。男性で十三歳、女性で十一歳ごろと言われています。また、成長に適した指導を考えるとき、子どもの成長には模倣期、習得期、鍛錬期、強化期という四つの時期があります。何でもまねをしたがり、いろんな動きをする模倣期は、男女とも十歳以下。ねばり強く継続できる能力を習得する習得期は男性で十歳から十四歳、女性は十歳から十二歳、専門種目で力強さを体得する鍛錬期は男性で十五歳から二十歳、女性で十二歳から十八歳。本格的なトレーニングができる強化期は男性で二十歳、女性は十八歳以降と言われています。身長、体重、筋肉、骨の発達する一般型は高校生以降、急激に発達します。
しかし、筋力が小さい子どもも「速く泳ぎたい」という気持ちは高校生と同じです。そこで、筋肉が未発達でも効率的に泳ぎ、大きな推進力を得る方法はあります。手や手のひら、足首の角度で泳ぎの効率は変わるのです。物体が前に進もうとすると流速が生まれ、抵抗力と揚力が発生します。この時の抵抗力と揚力の合力が推進力の大きさと等しくなります。水泳初心者は下半身が沈みがちな分、抵抗力が大きくなります。一方、競泳選手は体を水平に保てるので抵抗力が少ない上、揚力が初心者よりも大きいので高い推進力を生みます。前に進むと大きな揚力が得られるので水平姿勢の維持が一層容易になってきます。また、揚力は体とともに四肢にも働き、働く方向は上方ばかりでなく前方への推進力に加えることができます。さらに、泳ぎの効率は重心の位置とも関係します。人の体の重心は子供のころ、上半身側にあり効率良く泳ぐことができますが、成長に伴って下半身側に移ってきます。したがって、小中学生の時期は効率の良い泳ぎを身につける基礎づくりと考えるべきでしょう。なぜならば、成長に伴い重心が下半身側に移ってくると、泳法の改良を余儀なくされるからです。小中学生の時期に効率的な泳法の完成を急ぐ必要はありません。
最後に、スポーツでは身体に関する体育だけに比重をかけるのではなく、知と徳の教育にも配慮しないと社会人としての資質がバランス良く育ちません。小中学生の時期は将来にわたって物事に対する考え方(神経系)もはぐくまれる大切な時期。指導者や保護者は子どもたちの将来を見据えた指導を行わないと心にひずみを生む恐れもあります。水泳をはじめとするスポーツにて、健全、堅実、柔軟な心の教育も併せて行うことが大切といえるでしょう。