【講師】 |
『「環境汚染とこどもの発達」』
食品介する化学物質 発育への影響を研究
環境中にあるメチル水銀などの化学物質が胎児期や生後の発達に影響を及ぼすか、影響があるとすればどの程度の量で出現するかを研究しています。
自然界の水銀は大気中に水銀蒸気として存在します。その一部が水に溶けて水銀イオンとなり、水銀イオンのごく一部がメチル水銀に変換します。それが食物連鎖で生物濃縮されていきます。植物プランクトン、動物プランクトン、小型の魚類、大型の魚類あるいは海棲哺乳(ほにゅう)類とどんどん濃度が上がります。
これらを食べる人間の体内にもメチル水銀が入るので、世界各地で胎児期曝露(ばくろ)※の影響、母親の胎内で曝露された子どもが出生後どんな影響を受けたかの研究がなされています。
調査の枠組みは食品を介した化学物質への曝露。化学物質が発達期の子どもの神経系にダメージを与え、成長後に認知・行動面の発達が遅れるのでは―との仮説を立て、正否を検証します。新生児から学童期までをコーホート(ある期間に同時出生した集団)で追跡調査し、加齢変化などを分析したいと考えています。
まずインフォームドコンセントを得て妊娠二十週くらいの母親に登録してもらい、出産時に胎盤や臍帯(さいたい)、臍帯血を、二十八週目で母体血を採取します。並行して母乳の採取、母親の毛髪水銀濃度測定、食物頻度調査も行います。
子どもには生後三日目に「ブラゼルトン新生児行動評価」を行います。新生児の行動特徴を測定する手法で、睡眠時に光を当てる、ガラガラを見せるなどの刺激を与え、反応や反射的な行動をみます。調査結果は七クラスター(類似の項目の集まり)に分け、得点を付けます。
ただし子どもの発達や行動は育児環境や母親の栄養状態などさまざまな要因に影響されるため、これらのデータも加味して分析する必要があります。
まだ作業途中のため以下は経過報告ですが、ブラゼルトン新生児行動評価の得点と母親の毛髪中水銀濃度、水銀摂取量の指標となる魚の摂取量との関係がどうかを数学的なモデルで検討しました。
その結果、中間段階では水銀の曝露と新生児の行動はほとんど関係ないという結果ですが、あるクラスターの得点と毛髪中水銀濃度は負、魚の摂取量とは正の相関が得られました。
毛髪中水銀濃度と魚の摂取量に正の相関関係があることを考えると、この結果は不思議とも言えます。解釈の仕方はこれからの問題ですが、今後水銀以外にPCBやダイオキシン、農薬類も測定する予定です。学童期まで通してこれらすべての結果が出れば、環境汚染物質と子どもの発達の関係がより明確になるだろうと思います。
※曝露とは、人が環境を介して摂取する化学物質の量