【講師】 |
『「小児生活習慣病 ?長寿県だった沖縄からのメッセージ?」』
欧米流の食生活で進む子どもの肥満
WHO(世界保健機関)の調べでは、二〇〇〇年度に世界で亡くなった人の死亡原因を引き起こした因子の上位二つは高血圧、高コレステロール血症と、いずれも生活習慣病です。原因疾患のトップは心臓・血管障害で、その背景には生活習慣病が動脈硬化の進行を速めていることがあります。高脂血症、糖尿病、高血圧といった生活習慣病は肥満との関連が深く、生活習慣病の予防はまず、肥満の解消から始める必要があります。
日本で生活習慣病の問題が早くから生じている地方は長寿県のイメージが強い沖縄です。戦後すぐに米国の食習慣が入り込んだ結果、生活習慣病の進行は本土より二十年早いと言われています。女性の平均寿命こそずっと全国一位を保っていますが、男性は平成十二年に二十六位まで下降しました。平均寿命の伸び率は男性が最下位、女性も最下位から二番目の四十六位です。原因がすべて生活習慣病にあるとは限りませんが、県民のコレステロール値は二十歳代から五十歳代まで男性、女性とも全国平均を上回っています。肥満率も46%程度で一位。二位の北海道より一〇ポイントも高く、女性も同様に圧倒的に全国トップです。
子どもに目を転じると一―六歳、七―十四歳、十五―十九歳で脂質摂取率が30%以上とかなり高く、理想値の25%を超えています。
脂肪細胞が増加、肥大化すると、高脂血症、糖尿病、高血圧を合併しやすくなりますが、小児肥満の合併症では高脂血症が問題視されています。高脂血症は血液中の脂肪が増える病気で、コレステロールが増えるタイプ、中性脂肪が増えるタイプ、コレステロールと中性脂肪の両方が増えるタイプがあり、それが悪玉コレステロール、さらにサイズが小さく酸化変性を受けやすい超悪玉コレステロールとなった場合に動脈硬化を引き起こします。全国レベルで肥満でない学童が高脂血症で要指導・要治療となる割合は、要指導が四―五人に一人、要治療が二十人に一人ですが、那覇市の肥満の学童は要指導、要治療とも肥満でない学童の一・五倍となっています。
また那覇市と熊本市の十歳児生活習慣病(肥満)検診結果を比較すると、肥満児の割合、コレステロール、中性脂肪、インスリン(熊本市は未実施)、γ―GTP(肝機能障害の指標)の値で那覇市が上回ります。
さらに高脂血症を合併している肥満児の比較では、コレステロールと中性脂肪の両方増えるタイプと中性脂肪のみ増えるタイプは那覇市が多いという結果が出ています。これらの中性脂肪タイプの肥満児は、将来糖尿病に移行する可能性が大きいと言われています。中性脂肪が増えるとインスリン抵抗性が大きくなり、やがてインスリンが枯渇して血糖値の高い状態が持続する様になります(糖尿病)。
小児期の体重と各種危険因子の関係をみると、正常な子どもを一とすれば、肥満児の中性脂肪が高くなる危険性は五倍、悪玉コレステロールは三倍、超悪玉コレステロールは十一倍です。さらにインスリンの量が多くなる可能性は三十倍、インスリン抵抗性(多量のインスリンを必要とする状態)が大きくなる可能性は四十五倍とけた違いの数字になります。
このように沖縄では生活習慣病が深刻化しており、子どもも例外ではありません。予防方法はいかに肥満を防ぐかにありますが、肥満の成因のほとんどは飽食、運動不足といった社会経済的問題、母親のかかわり方などの誘発因子によるところが大きいのです。
そこでどの段階から治療を始めればよいかということですが、小学校高学年や中学生になってから始めては遅すぎます。理想は三歳健診で肥満傾向児を早期に発見し、その時点で保護者に栄養指導をすることです。小学校入学前からのきちんとした対応が肥満の予防には不可欠です。