肥後医育塾公開セミナー

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平成17年度 第3回公開セミナー「小児生活習慣病を防ぐには」

【講師】
帝京大学医学部小児科教授
児玉 浩子

『「子育てと生活習慣病」』
子どもを自立させ生活習慣の改善を


   生活習慣病とは糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満などを言いますが、中でも肥満がこれらの元となります。
 肥満は肥満度(身長に見合う標準体重より何パーセント重いか)で判定し、幼児、学童の場合は20%以上が肥満となります。この肥満度から肥満傾向児の出現率をみると、小学校に入ってから急激に増え、男子の割合が女子より高いという傾向があります。平成十六年度の十一―十二歳男子の肥満傾向児出現率は11%で、九人に一人は肥満といえます。

 子どもの肥満は成人肥満に移行しがちであり、男子にその傾向が強く見受けられます。
 最近の特徴は、合併症を持つ高度肥満の子どもが増加していることです。肥満男子の四割以上は肝機能障害や高インスリン血症(潜在的糖尿病)を持っていて、肥満児の三人に一人は中性脂肪が高いと言われています。学童の2型糖尿病(生活習慣病による糖尿病)も年々増加しており、一九八二―八六年は十万人に一・八九人だったのが、九七―二〇〇一年は五・一一人となっています。コレステロール値の高い高脂血症の子どもも増えてきていますが、これは女子に多く、小学校三・四年生と高校生の女子は20%を上回っています。

 このような小児生活習慣病が発症する要因としては、最近胎内での栄養不良が指摘されています。妊娠ダイエットなどで“小さく産んで大きく育てる"というのは子どもによくありません。胎児期に栄養が悪ければエネルギーをため込む飢餓に対応するような体になるため、将来肥満や生活習慣病になりやすいのです。また脂肪の取りすぎや朝食の欠食、運動不足も小児生活習慣病の発症要因として挙げられます。

 このため食育が盛んですが、まずは家庭の子育てを通じた生活習慣病の予防が大事です。まず子どもに食に関心を持たせるため、親が関心を持つ必要があります。関心を持たせるには食事を親子で一緒に作り、一緒に食べることです。そうすれば栄養の大切さを理解できるようになります。また生き物を料理させて食べ物への感謝の念を抱かせる、嫌いなものを食べる挑戦をさせる、朝ご飯は必ず食べるといったことも重要です。

 すでに肥満児である場合は、一日の摂取量を一―二割減らす、間食を減らす、清涼飲料水をやめてお茶にする、牛乳は低脂肪にする、大皿に盛らずに一人分ずつ盛りつける、よくかんでゆっくり食べるというような食事の指導をして、体重の変化をみながら摂取量を調整する必要があります。当然、運動も不可欠ですが、長続きさせることがポイントになります。健康日記をつけさせて体重の推移を知ることも効果的です。標準体重をどの程度オーバーし、どれだけ体に負担になっているかを理解できるからです。

 さらに2型糖尿病や高脂血症の子どもには、すぐに対応しなければなりません。まず合併症があるかどうかなどをチェックし、子どもの状態を把握します。そして食生活を見直して運動を奨励し、毎日体重測定をする必要があります。ポイントは実現可能な目標を設定することですが、それには家族全員の協力が欠かせません。あきらめないで、努力を重ねていけば目標はクリアできるでしょう。

 子育ての目標は子どもを自立させることにあると思います。自立を妨げないようにするには過保護にならないということが大切。子どもは親から愛されている、信頼されていると感じたら、さまざまな経験をして乗り越えていくものです。難しいこととは思いますが、母親も子どもと少し距離を置いて、仕事や趣味など自分の時間を持つようにするのもよいでしょう。