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『「糖尿病による眼の病気」』
血管障害で網膜症を発症
日本を含めた先進国で後天的な失明原因の第一位は糖尿病による網膜症です。糖尿病は眼科医にとって非常に大きな問題となっています。
なぜ糖尿病になると眼が悪くなるのでしょうか。一般的に血糖値が高くなって糖代謝異常が起こると、さまざまなストレスが血管にかかってしまうといわれています。そして糖尿病になると、弱った血管の障害が積み重なって全身でさまざまな合併症を引き起こしてしまうのです。
特に重篤な症状になりえる組織の一つが眼です。初期症状は血管が細くなったり透過性が高まることで本来漏れてはいけない血液中の成分がダラダラと網膜の中に染み出してきます。眼の中の細い血管が詰まってしまうことによる出血や血が足らなくなることで神経の一部が膨らんでしまってできる綿花状の白斑も出てきます。これらが視力を低下させるのです。これらを放置してしまうと網膜はく離になったり、血管が破れて大出血を起こしたりして最終的に手術や投薬治療では治らなくなり失明に至ります。
血糖管理など必要
糖尿病になると、約四割から五割が網膜症を合併症として発症すると言われています。糖尿病網膜症はいったん起きてしまうと、かなり治療をしないと回復させることができません。さらに緑内障や白内障などほかの眼の疾患も起こりやすくなります。糖尿病またはその疑いがあるとされたら網膜症の早期発見・治療のため、ひいては失明を予防するためにも定期的に検診を受けてください。
大学病院には重症の糖尿病網膜症の患者が来られますが、「どうしてこんなに悪くなるまで病院に来なかったのだろう。もっと血糖の管理をきちんとし、食事制限や運動していれば…」と思うことがたびたびです。病気を軽く考えていたり、見えているから大丈夫だろうと楽観していた結果に、患者さんたちもとても後悔しておられます。
糖尿病による網膜症の治療では、第一に正しい血糖管理と生活習慣の改善が必要です。これがすべての治療の基本であり、もっとも大切なことです。網膜を悪くするのは、血糖のコントロールが不良で症状が悪化している期間が長いときです。きちんと血糖をコントロールすることが大事ですし、高血圧や高脂血症などがあれば、それも悪化させないよう配慮しなければなりません。第二は定期的な眼科検診です。失明予防で重要なのは早期発見・早期治療。糖尿病網膜症の患者は自覚症状がなくても数カ月おきに定期的に眼底検査をしてください。
治療方法に選択肢
手術を恐れたり治療をためらっているうちに、網膜はく離や緑内障によって網膜の神経細胞そのものが死んでいってしまいます。いったん神経細胞が失われると手術をしても視力は回復しません。糖尿病網膜症の手術はかつて失明を防ぐための極めて危険な最後の手段だという考え方が一般的でした。しかし現在は、よりよい見え方や生活の質、人生の質の改善を目指すという積極的な姿勢で行うものに変わっています。また、レーザー手術や投薬治療など現在はたくさんの治療法があり、早期に発見することで患者さんのライフスタイルや希望を聞きながら多くの選択肢から適切な治療を選んで行うことが可能になっています。医師としても、患者さんと相談しながら一番望む方法を選んでもらうことが正しい治療だと思っています。
しかし、これももともとの糖尿病の症状が改善された上で効果的なのであって、眼だけ良くなっても再発の可能性をはらんでいます。内科の先生と連携しながら全身的な糖尿病治療を進めることが欠かせないのです。