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『「糖尿病と循環器疾患」』
高まる心筋梗塞のリスク
日本人の死因を見てみると、三分の一は「動脈硬化性疾患」、三分の一は「がん」です。
動脈硬化性疾患とは、脳では脳梗塞や脳出血などの脳卒中、心臓では狭心症や心筋梗塞、おなかでは腹部大動脈瘤や腎臓の腎硬化症、閉塞性動脈硬化症などです。中でも心臓の病気が増えており、特に糖尿病患者は心臓疾患を起こしやすい傾向が見られます。
心臓疾患の中でも多いのは狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患で、これらの合併症を引き起こして亡くなる糖尿病患者が年々増えています。
痛みなく症状進行
動脈硬化になると、動脈にコレステロールなどさまざまなものがたまってきて血管の内腔がだんだん狭くなります。そして、あるとき急に破裂し、たまっているものが血管内部にどっと出て血栓ができます。その血栓が心臓を栄養する(養分を取り入れる働きのこと)冠動脈を詰まらせると急性心筋梗塞が起きるのです。糖尿病患者の急性心筋梗塞で特に困るのは、痛みを感じないことがあることです。痛みがないまま症状が進行し、重症化します。
現在日本では、高血圧が三千三百万人、高脂血症が二千二百万人、糖尿病が七百四十万人もいるといわれています。心筋梗塞の場合、どういう因子が悪いのでしょうか。一番悪いのは高血圧、次いで糖尿病、三番目が喫煙です。このうち糖尿病の心筋梗塞に対するリスクは年々上昇しています。循環器の専門医にとっても糖尿病は避けては通れない問題になっており、糖尿病専門医と協力して治療にあたらなければならない事例が増えています。
高血圧、糖尿病、喫煙の三つのリスク因子をみると、何も当てはまらない人を基準にすると、三つとも該当する人は心筋梗塞になるリスクも十倍。一つでも減らすだけでリスク指数は変わってきます。また男性で腹囲が八十五センチ、女性で九十センチを超える肥満の人で、中性脂肪が百五十mg/dl以上、善玉コレステロールが四十mg/dl以下、血圧が上は百三十で下は八十五以上、血糖は百十mg/dlに当てはまる人はメタボリック症候群といって動脈硬化性疾患になりやすいといわれています。
日本全国から心筋梗塞を起こした患者五千三百二十五例を集計した私たちの調査によると、糖尿病患者が32%にも上りました。また、心筋梗塞で入院時に血糖値が高い人ほど、死亡率が高いことも分かりました。
心臓にもダメージ
糖尿病になると心臓の冠動脈の病変が起こりやすくなり、かなり心臓がやられやすい傾向があります。また、狭心症や心筋梗塞を発症しても糖尿病患者は痛みが弱いので症状が少なく、かなり広い範囲でダメージを受けてしまいます。
心臓の手術というと、皆さん驚かれるでしょうが、現在は内科的にカテーテルで血管を風船で膨らます、ステントを使う方法がありますし、それが難しい場合には、狭くなった血管の遠位側に大動脈から血管をつないで正常な血液の循環を再構築するなど、手術も大変進歩しています。手術の翌日には食事ができますし、三、四日で歩ける人もおられます。だから「手術が必要」と言われてもそんなに落ち込まれる必要はありません。
糖尿病の場合、血糖のコントロールを適切に行うことで合併症の循環器疾患の発症や進行に大きな影響を与えます。ぜひ予防にも力を入れるようにしてください。