肥後医育塾公開セミナー

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平成17年度 第1回公開セミナー「動脈硬化と心臓病?その予防と治療?」

【講師】
熊本市民病院診療部長
外村 洋一

『「心房細動と脳梗塞の関連」』
心臓の働きが低下血栓が脳に詰まる


   脳梗塞を起こす原因のうち、心臓によるものは約30%を占め、主要な原因の一つになっています。心臓が原因の脳梗塞を心原性脳梗塞と呼び、心原性脳梗塞には心房細動という不整脈が深くかかわっています。

 心臓は心房と心室の収縮を交互に繰り返して血液を循環させています。心房の電気的興奮(収縮)は心電図ではP波として、心室の収縮はQRS波として現れますが、正常な心臓ではP波とQRS波が規則正しく出てきます。心房細動が起きると、心房の電気的興奮がさざ波(F波)のように連続して出現、その間に不規則にQRS波が混じって現れる状態になります。心房が本来の収縮力を失い小刻みに震えているような状態になっているのです。それによって心臓の働きが低下、部分的に心臓内部の血流が悪くなり、血液の固まり(血栓)が左心房内にできやすくなります。その血栓が血流とともに流れて脳血管を詰まらせて脳梗塞を起こすわけです。

 左心房内の血栓はCTやMRIでも発見できますが、超音波を利用した心エコーが簡便な方法です。ただ一般的な心エコーは大きな血栓しか発見できませんので、疑わしい時は食道に小型の超音波発生装置を挿入し、左心房に近づけて正確に検査できる経食道心エコーを行います。この方法だと左心耳と呼ばれる血栓ができやすい部分がよく観察できますので、心房細動によってできる血栓を発見するのに効果的です。

 心原性脳梗塞は急に発症し、手足のしびれや麻痺(まひ)、言葉が出ないなどの症状が出ます。発症直後に脳のCT画像を撮ってあまり変化は見られませんが、二十時間ほどして検査すると、はっきり分かるように広い範囲に梗塞が出現して、重症の場合が多いものです。

 心房細動は心臓病がある人のほか、極度の貧血、甲状腺ホルモンの異常、低酸素血症、自律神経の異常などでも起こります。またこれらの症状がない人でも、加齢や睡眠不足、過度の運動や飲酒、カフェインの取りすぎ、喫煙などでも発症することがあります。

 発症当初の心房細動は脈拍が百二十を超えることが多く、急に脈が速くなったり、遅くなったりします。持続時間は四十八時間以内で収まる人や、四十八時間から一年未満の人、中には一年以上続く人もいます。一年以上持続する人はいろいろな治療を行っても正常に戻すのは困難です。しかし適切なコントロール治療を維持すれば日常生活に問題はありません。

 心房細動に加え高血圧や糖尿病があると、血液循環がさらに悪くなり、脳梗塞になる危険性が高くなります。特に過去に脳梗塞を起こした人は、心原性脳梗塞に大変なりやすくなりますので注意が必要です。

 心房細動の治療は心房のリズムを正常にしてやることが第一です。しかし、治療しても治らない人は薬物で脈拍を通常域(毎分六〇―八〇回)にコントロールすることになります。そして脳梗塞のリスクが高い人は抗凝固療法が必要です。血栓を防ぐ薬にワーファリンがありますが、取りすぎると重大な出血性の合併症を起こしやすくなりますので、専門医の指導による服用が不可欠です。