肥後医育塾公開セミナー

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平成17年度 第1回公開セミナー「動脈硬化と心臓病?その予防と治療?」

【講師】
熊本赤十字病院循環器科部長
緒方 康博

『「心筋梗塞とはどんな病気か?その治療」』
冠動脈に血栓でき胸全体に強い痛み


   心筋梗塞(こうそく)の主な症状は胸の痛みですが、これは針で刺すようなちくちくとした痛みではなく、胸全体に感じる漠然とした痛みです。中には胸が締め付けられるような痛みとか、焼け付くような痛みと表現する患者さんもいらっしゃいます。痛みが強いので死の恐怖を感じる人もいるようです。

 痛みは数時間から十数時間続くこともあり、冷や汗を伴うことも多いものです。吐き気や上腹部痛を訴える方もいらっしゃいますので、消化器疾患と間違われることもあります。高齢者や糖尿病の患者は無痛性の心筋梗塞が起きることもあります。

 心筋梗塞の胸部痛は突然起こることが多く、男性では六割、女性でも四割強の患者さんが何の前触れもなく発作が起こっています。ですから狭心症がないからといって、心筋梗塞にならないとは言い切れません。

 心筋梗塞は心臓の筋肉に栄養を送る冠動脈の内壁にできたコレステロールの固まりが、何らかの原因で破れ、その部分に血栓ができ冠動脈が詰まることで起きます。

 冠動脈が詰まるとすぐに心筋は収縮を停止してしまいます。しばらくすると心筋は壊死(えし)に陥ります。壊死は時間とともに進み、六―十二時間で心筋は完全に死んでしまいます。心筋の壊死が始まると、心臓の収縮する力が低下。加えて弁の働きが悪くなり、それが機能低下に拍車をかけます。壊死した部分が破裂し心臓が停止してしまうという最悪の事態になることもあります。

 心筋梗塞は死亡率30―40%といわれています。その半数が病院に到着する前に亡くなっています。病院に着いても5―15%の方が死亡、その約半数は四十八時間以内に亡くなっています。良くなって退院された人でも、十―二十五人に一人は一年以内に亡くなっています。

 心筋梗塞を発症すると不整脈が起きますが、発症してすぐ亡くなる人のほとんどがこの不整脈によるものです。数日以内にはショックや心破裂が、それ以降は心不全が原因で亡くなる人が多いようです。

 心筋梗塞で亡くなる人を減らすには、できるだけ短時間で治療を開始する必要があります。心筋の壊死をくい止めるためにも時間との闘いになります。それには発生直後の不整脈を抑えることが重要になりますが、救急車が着く前に、発症した人のすぐそばにいる人(バイスタンダー)が自動体外式除細動器(AED)を使えればベストです。AEDは羽田空港に五十台備えてあるなど、公共施設に普及しつつあります。そして一般市民の皆さんがAEDを使えるようになることが必要です。

 ショックや心不全を防ぐには冠動脈の血流を元に戻す手術が必要です。それにはバルーンによる血管拡張や、血栓を吸引する治療が行われています。

 日本では心筋梗塞は年間十五万人発症しているといわれています。男性が女性の倍ほど発症しています。県内の主な医療機関にアンケート調査をしたところ、昨年一年間に熊本県で約千人が発症しているようです。発症する年齢は、熊本赤十字病院のデータでは男性が平均で六十五歳、女性が七十六歳となっています。

 心筋梗塞は死亡率も高く本人にも家族にも精神的、経済的に多大の負担をかけます。心筋梗塞にならないように日ごろの生活習慣に気をつけてください。