肥後医育塾公開セミナー

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平成16年度 第3回公開セミナー「がんの画像診断と治療の最前線」

【講師】
熊本大学大学院医学薬学研究部 放射線診断学分野助手
河中 功一

『「がんを切らずに治す?その1 画像誘導下の低侵襲手術とは」』
針で病巣を“焼く”ラジオ波凝固治療


   がんの治療は切除して治すのが一般的ですが、何らかの理由で手術できない場合に、手術しないで治療する方法も研究されています。

 がんの検査法のCT検査は、進歩して数?ほどの小さな病変でも発見できるようになりました。ところが画像だけでは確定診断ができませんので、細胞を取って調べる必要があります。その細胞摂取に針を使いますが、その技術を応用した治療法が研究され、針で病巣を“焼く"方法や、凍らせてがん細胞を殺す治療法が実用化されています。

 低侵襲手術のなかで病巣を“焼く"方法にラジオ波凝固治療があります。ラジオ波とは電磁波のことで、電子レンジでも使われています。要するに針の先から電磁波を出して、がん細胞を“焼く"わけです。この治療方法は肝臓がんに対してのみ健康保険適用なっており、保険点数は十三万六千円です。実際、針だけでも九万円します。健康保険が適用されていると言うことは、言い換えれば安全で効果がある治療方法と国が認めているということになります。

 針には先端が花びら状に開くタイプと開かないタイプがあります。治療器具自体は大がかりな装置ではなく、針を病変に正確に刺しさえすれば治せます。がんの周辺にすき間があったり、太い血管があったりすると、がん細胞を焼き切れずに残る場合がありますので、何回か治療する必要があります。治療して一カ月ほど経つと、焼いた跡は縮んで治っていきます。

 合併症としては痛みや発熱などがありますが、ほとんどが短期間のもので治療の必要のないものです。

 熊大附属病院では手術が難しい、あるいは抗がん剤治療に対して効果が乏しい肺がん患者を対象として昨年の十一月までに、十四人をこの治療方法で治療しております。一人の患者に対して四―五回治療したこともありましたし、両肺を同時に治療することもあります。一センチの肺がんを治療するのに約二十分かかります。四センチだと三十分から一時間です。一回の治療でできるのは一―三個の病巣になります。

 熊大附属病院での治療成績は二十三病巣のがんを治療して二十一病巣を治すことができました。うまくいかなかった二病巣のうち一病巣は、特殊な例でした。もう一個は近くに大きな血管があったためうまくいきませんでした。しかしこれも二回目の治療で成功しました。技術的にできない症例はなく、合併症を起こした人はいましたが、いずれも軽いものでした。また入院期間は平均で約二―三日でした。

 アメリカの実績ですが、早期肺がんに対するラジオ波凝固治療の治療後から四年経過した時点での患者の生存率は、手術成績と比べて高くなっています。また患者の生活の質を落とすことなくできる体に優しい治療法なのです。

 ラジオ波凝固治療の利点として、(1)患者の体への負担が軽い(2)治療期間も短い(低侵襲)(3)針が安全に刺せることができれば治療できる(4)治療成績がよい(5)臓器の機能が生かせる?治療効果がすぐに現れる?繰り返し治療可能―などが挙げられます。

 一方、欠点として(1)サイズの大きいがんや正常な細胞との境界がはっきりしないがんは治療しにくい(2)大きな血管の近くや大事な神経の近くのがんは治療できない場合もある(3)治療後に針を刺した跡が残る(4)局所麻酔による治療なので、安静が保てない人や、コミュニケーションが取れない人には治療しにくい(5)新しい治療法なので長期にわたる予後は不明―などがあります。

 熊大附属病院放射線科では、肺、肝、腎、骨のがんのうち、手術ができない人や、どうしても手術をしたくない人、放射線治療や抗がん剤治療で効果がなかった人、がんの大きさが三センチ以下の人にラジオ波凝固治療を施しています。

 なお健康保険が適用されるのは、肝臓がんだけで、他は一泊二日から二泊三日の自費入院で自己負担額はおおよそ二十―三十万円になります。がんが治るのであれば安いのかもしれません。