肥後医育塾公開セミナー

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平成16年度 第3回公開セミナー「がんの画像診断と治療の最前線」

【講師】
熊本大学医学部付属病院 中央放射線部助教授
森下 昭治

『「がんの早期診断について」』
体の変調感じたら早めの病院受診を


   一九三〇年ごろは結核が一番多い死亡原因でしたが、一九五〇年代から徐々にがんが増えてきました。現在は二分の一の人ががんにかかり、三分の一が亡くなっています。

 がんになることを完全に防ぐ方法はありません。しかし可能性を低くする方法はあります。例えば、喫煙、過度の塩分摂取など、がんの原因とされるものをなるべく避けることです。喫煙は肺がんになるだけでなく、口腔がん、舌がん、喉頭がん、膵臓(すいぞう)がんや膀胱(ぼうこう)がんも増加させるといわれています。

 がんの治療には早期発見、早期治療が重要なカギを握ります。そのためには自己診断も大切です。食欲が落ちたな、体がだるいな、体重が減ったなど、いつもと違うなと感じたら早めに病院を受診することが必要です。

 胃がんは胃壁を形づくる組織の一番上に位置する粘膜から発生し、次第に下の組織に浸潤していきます。できれば粘膜にあるうちに発見したいもの。下の組織に浸潤すればリンパ節や他の臓器に転移しやすくなり、転移してしまうと胃だけの病気ではなくなります。

 胃がんの検診はX線透視による方法が一般的です。これで要精検となる人は約15%。そのうちがんの人は1%(受診者の0・15%)で、そのうち、74%の人は早期がんで発見できます。ただ、この検診では、食道がんや胃が変形しないがん、ごく早期のがんなどが発見されない可能性があります。

 胃がんの検診には胃カメラによる検査もあります。この方法は直接病変が見られる、食道の病変も発見できるなどの利点があり、X線透視による検診より有用です。

 四十歳以上の数百人に一人の割合で胃か食道にがんがあるといわれています。どちらも早期には無症状で病気が進みますので、四十歳以上の人は必ず検診を定期的に受けてください。

 次に肺がんです。一九八九年には五万千人が肺がんで亡くなり、二〇一五年には十二万人が亡くなるという予測もあります。
 肺がんは喫煙が大きな要因ですが、喫煙者は非喫煙者の男性で四―五倍、女性で二―三倍高くなるといわれています。近年、胃がんで亡くなる人は減っていますが、逆に肺がんは増えています。

 喫煙が原因での肺がんは、男性で70%、女性が15%といわれています。受動喫煙もリスクが高く、夫の喫煙による妻のリスクは非喫煙者と比べ一・三―一・五倍とされています。

 肺がんの検診はX線撮影が一般的です。しかし肺の周囲には鎖骨やろっ骨、心臓があり、重なった部分は見つけにくいものです。

 淡い肺がんの影は見逃しやすいものですが、最近開発されたヘリカルCT検診だと高い精度で発見できるようになりました。コスト高や被爆量が多いことなどの問題点もありますが、可能であれば、CTによる検診をお勧めします。

 また、PET(ペット)という新しいがんの検査法が開発されています。検診を受ける人は、一回で、苦痛なく、全身の検査ができることを望むものです。ところが従来の検査法は、多くを組み合わせないと全身をチェックできません。さらに、CT検査では病変の存在は分かっても、悪性か良性かの判断まではできません。

 PET検査では全身を一度に検査することが可能で、また病変の性質についても診断ができます。すべてのがんを発見できるわけではありませんが、多くのがんの発見に有効です。

 検査は放射性薬品を約三?注射し、一時間の安静後に仰向けに寝た状態で約三十―四十分間撮影します。放射線被爆量は胃がん検診で受ける量とほぼ同じです。現在、保険適用には制限があります。

 原因が分かっているがんは、喫煙、飲酒、食生活の三要素で発生原因の七割を占めています。喫煙と過度の飲酒、悪い食生活の改善が、がん抑制に有効だと思います。