肥後医育塾公開セミナー

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平成16年度 第2回公開セミナー「がんの予防とくすりによる治療の最前線」

【講師】
国立病院機構熊本医療センター副院長
河野 文夫

『「消化器がんの予防と治療」』
効果上げる化学療法 分子レベルの治療も


   血液は白血球と赤血球、血小板からなる血球成分と水分、タンパク質などからできている液体成分(血漿=けっしょう)から構成されています。白血球は免疫、赤血球は呼吸、血小板は止血機能があります。

 血球成分は骨の中の骨髄(こつずい)で作られ、液体成分はほとんどが肝臓で作られています。白血球、赤血球、血小板は全く異なる形態で、働きも異なりますが、どれも同じ共通の細胞から生まれてきます。その細胞を幹細胞とか造血幹細胞と呼んでいます。

 血液のがんは幹細胞が血球成分に成長する過程で発症します。成熟した血球は分裂しませんので、がん化しませんが、成長過程の未熟な細胞は分裂しますので、その時がん化します。

 幹細胞に近い段階の若い細胞に発症するのが慢性骨髄性白血病と骨髄異形成症候群で、もう少し細胞が分化した段階で発症するものに急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病などがあります。

 日本人の血液がんの発症率は数々のがんの中で男女とも六位から七位です。決して少ないがんではありません。
 原因ははっきり分かりませんが、ウイルス、化学物質、放射線などが有力な原因と考えられています。

 血液がんが、ほかのがんと最も違うのは、診断された時点で全身にがん細胞が回っているという点です。しかし化学療法が非常に効果があるのが血液がんの特徴です。化学療法は血液がんの治療の進歩に合わせて進歩してきたといっても過言ではありません。

 血液がんの一つの急性白血病の化学療法は、白血球の数がほとんどゼロになるまで抗がん剤を投与します。ただその状態が長期間続くと危険ですので、通常は、二週間ほどそういう状態になるよう薬の量を加減してあります。その後はまた白血球が増えてきますので、再び抗がん剤を投与します。これを繰り返せば約二―三割の人が完治します。

 大量の抗がん剤を投与して、がん細胞をすべて死滅させるのがいいように思われますが、そうすると幹細胞までなくなってしまいます。そこでほかから幹細胞を持ってくるのが骨髄移植です。

 骨髄移植には自分の幹細胞をあらかじめ保存しておいたものを使う自家移植、家族や骨髄バンク、臍帯(さいたい)血バンクから移植を受ける同種移植があります。

 最近、分子レベルでがん細胞を攻撃する分子標的療法が注目されています。慢性骨髄性白血病は染色体の異常を調べることによって診断できるようになっています。その異常な染色体を有する白血病細胞だけに効く薬がグリベックです。がん細胞だけに効く画期的な薬です。このほか分子標的療法の一種で、ビタミンA誘導体(レチノイン酸)で急性前骨髄性白血病を治療することも実用化されています。

 ヒ素は漢方の古典に血液の病気に効くと記されています。事実、急性前骨髄性白血病の治療で、レチノイン酸の効果がなくなった患者に投与して効果があり、つい最近、保険で使えるようになりました。

 サリドマイドは一九六〇年代に睡眠薬として製造されました。現在は薬害のためほとんどの国で製造中止になっていますが、多発性骨髄腫の治療で、骨髄移植でも効果がなかった患者に効くなど注目され、すでに使用されています。

 抗体療法という治療法も実用化されています。すべての細胞は抗原という目印のようなものを持っています。がん細胞にも抗原があり、それに対する抗体を作って抗体療法を行います。