肥後医育塾公開セミナー

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平成15年度 第2回公開セミナー「加齢にともなう膝の痛み」

【講師】
熊本大学大学院医学薬学研究部運動骨格病態分野助教授
水田 博志

『「膝の手術?現代そして未来?」』
各人に適切な方法決定 


   運動療法や薬など変形性膝関節症の治療を一定期間続けても、膝の痛みがとれなかったり、変形がひどい場合は手術を検討せざるを得ません。膝の手術には、?関節鏡手術?けい骨骨切り術?人工関節置換術の三つがあります。

 ?関節鏡手術は、膝の前方に五ミリほどの穴を開け、関節鏡という内視鏡を用います。内部を診断しながら、同時に特殊な小さな手術機械を使って、けばだった軟骨や割れた半月板を取り除きます。関節を切開しないため、患者さんの負担が軽く、手術跡も一針程度の傷が二カ所残るくらい。翌日から普通に歩くことができ、入院日数も二、三日ほど。しかし、根本的な治療ではないので、人によっては効果が長続きしない場合があります。

 変形性膝関節症は関節軟骨の内側が摩耗し、だんだんO脚になってきます。?けい骨骨切り術は、O脚に変形した関節をすねの骨(けい骨)を切って軽いX脚に矯正する方法です。きちんとした矯正ができれば効果が確実ですし、膝は手術前とほぼ同じに曲がります。しかし、手術後の回復に二カ月半から三カ月もの時間がかかり、その間は松葉づえが必要です。

 ?人工関節置換術は、軟骨の内側だけでなく外側まですり減っていたり、膝の変形がひどく骨まで摩滅しているなど、かなり症状が進んだ人に行う手術です。膝の前を十五センチほど切開して関節を開き、変形の程度に応じて関節の上下の骨を切り取り、その表面に人工関節をはめこみます。症状がかなり進んでいても、人工関節によって正常の関節に近い形を再建でき、関節自体を置き換えるので、痛みもほぼ完全に取れます。術後の回復も早く、三日目ほどで立つ訓練を始められ、三週間ほどで普通に歩けるようになります。入院期間は三、四週間ほどです。しかし、人工関節の耐久性は十五年程度といわれており、それ以上たつと再置換が必要になってくる場合があります。膝の手術は、膝の状態や年齢など患者さん一人ひとりに合わせて、適切な方法を決めることが大切です。

 軟骨はいったん損傷されると、修復できない組織です。血管がないので、治そうとする細胞を運んでくることができません。しかし、近年、細胞増殖因子の研究が進んでおり、将来、軟骨が再生できるようになるかもしれません。熊本大学では、すでに細胞増殖因子の研究の最終段階で、準備が整い次第、患者さんへの治療をスタートさせる予定です。