肥後医育塾公開セミナー

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平成15年度 第1回公開セミナー「スポーツ医学から見た正しいトレーニング」

【講師】
熊本大学教育学部教授
小郷 克敏

『「発育に合わせた練習必要」』
小中学校のクラブ活動でスポーツ障害を起こさないために


   小中学生のスポーツのやり方は大人とは違います。その点からお話しします。
 小学生の間は調整力を養う時期です。調整力とは神経が筋肉をうまくコントロールして、体をスムーズに動かせることです。それができるとさまざまなスポーツに適応した動作ができるようになります。ですから多くの種類の運動を経験する必要があり、遊びやじゃれ合いなどにもそうした要素が含まれています。
 重要なのは小中学生の時期は発育に合わせてトレーニングすることです。子どもは"サイズの小さい大人"ではなく、スポーツをやる要素がすべてそろっているわけではありません。体力の要素にはスピードや持久力、パワーなどがあります。スピードは比較的早く完成し十五歳ほどで大人と同じレベルになります。持久力はそれより遅れて十八歳ごろ、筋力は遅く二十歳ごろになります。つまり動作の取得は早く、次にねばり強さが獲得され、最後にパワーが身に付くというわけです。
 筋肉は筋線維から出来ていますが、大きく分けて二つのタイプがあります。タイプ1は遅筋線維と呼ばれています。細く小さい線維で、大きなパワーが出ないものの力が持続します。タイプ2は速筋線維と呼ばれ、aとbに分けられます。bは大きなパワーが出せるものの、持続時間が短くなります。aはタイプ1とタイプ2bの中間的性質を持っています。十歳ごろは遅筋線維が多く、成長するにつれ速筋線維の割合が増してきます。
 二十五歳ごろ最も速筋線維の割合が多くなります。それは子どもから大人になる過程で、筋肉の性質が変化することを意味します。子どもの体力は質的な変化を遂げて大人になるとも言えるでしょう。
 発育、発達に合わせてトレーニングすることは、その質的変化に合わせることにほかなりません。このことから小中学生の時期は、トレーニングが早すぎると効果が出にくいことがあります。そのためトレーニングの量や方法が間違っていると勘違いすることがあり、注意が必要です。
 パワーが身に付く時は必ず来ます。焦らないことが大切です。いつその時期が来るかは、身長の伸びが一つの目安になると思います。その時期を見極めるのが指導者の役割の一つでしょう。
 どの時期にどのようなトレーニングが適切かといいますと、小学生期には体の動き方を習得するのに適しています。次に体を動かし続ける運動で、身長が伸びなくなったら、筋力トレーニングをしてもかまわないでしょう。
 小学生のスポーツ障害を防ぐには練習時間にカギがあるようです。一週間あたりの練習時間が十四時間を超えると、急に障害が増えるというデータがあり、それを示唆しています。
 練習の仕方にも工夫が必要です。練習すると筋肉は疲労し、休息すると回復します。回復するとき、練習前の能力より高いレベルで回復する時期があり、「超回復」と呼ばれています。その時期が過ぎるとまた元のレベルに戻ります。超回復の時期を逃さず練習を続けると、レベルアップができます。
 障害や外傷を負わないためには(1)グランドなどの練習環境を整備する(2)一回の練習時間は一時間半から二時間以内(3)一週間の練習日は五日以内(4)十分な栄養と休養を取る(5)一年を通して常に同じスポーツのみを行わない―などが大切です。