肥後医育塾公開セミナー

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平成15年度 緊急フォーラム「新型肺炎?SARS?にそなえる」

【講師】
熊本市民病院副院長
岳中 耐夫

『「熊本市民病院における発症者対策と二次感染防止対策」』
過剰なパニックは禁物


   もしSARS患者が発生すると、第一種感染症指定医療機関である熊本市民病院に入院していただくことになります。そこで当病院ではどう対応するのかをお話しします。

 まずSARSに感染しているかどうかの検診ですが、熊本市民病院では症状がない方の検診はお断りしています。その理由は無症状の人を検診しても、SARS発症の可能性はまったく分からず、検診そのものが無意味だからです。また十日以内に流行地域に渡航した人の検診についても同様にお断りしています。その人は潜伏期である可能性があります。SARSウイルスが体内に入って、いつから感染力を持つかはまだ解明されておらず、周りの人に感染させる恐れがあるからです。また一般の患者さんとは別に、SARS検診希望者だけに集まってもらって検診しますので、結局本人にとってハイリスクとなります。流行地域に渡航して十日以内の人は、自宅待機をお勧めしています。先日、SARSに感染した台湾の医師が関西地方を旅行したことがありました。「そのときたまたま大阪にいた」とか「同じホテルに行った」といった理由で、検診を希望される方もいらっしゃいました。しかし同じ都市にいたというだけでは感染はしませんので、パニックにならないことが大切です。

 SARSの診察ですが、まず問診票を書いてもらい、こちらで「疑い例」と「疑い例以外」に分けます。「疑い例」の人はサージカルマスク(外科用のマスク)を着用していただき、個室で診察と採血、レントゲン撮影をします。肺炎にかかっている場合は入院していただきます。「疑い例以外」の人は基本的にはほかの患者さんと同様に扱います。検査を希望される場合はマスクをしていただき、採血とレントゲン撮影をします。いずれも異常がなければ帰宅してもらいます。

 SARSの患者さんは、部屋の空気が外に漏れないようにした陰圧式の部屋に入院していただきます。排水は一般の排水とは別になっていて、殺菌して処理しています。食器は使い捨てで焼却処理されます。テレビ、電話、シャワーがあり、日常生活に近い生活が送れるように配慮されています。

 日本ではまだ患者は発生していません。にもかかわらず台湾の医師が旅行したときのケースなど、さまざまな混乱が生じています。これはみなさんが正しい情報を持っていないことや、医療関係者も初めての体験で対処方法が確立されていなかったことが原因だと思います。確定診断法も有効な治療法もまだ確立されていませんが、正しい知識を持っていただければ、必ずSARSを封じ込めることができると思います。