肥後医育塾公開セミナー

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平成15年度 緊急フォーラム「新型肺炎?SARS?にそなえる」

【講師】
熊本大学大学院医学薬学研究部感染防御学分野教授
原田 信志

『「SARSの病原ウイルスと感染経路」』
治療法確立へ研究進む 


   SARSウイルスは非常に早く突き止められ、病気が発見されてから約二カ月後にはウイルスが分離同定されました。エイズの場合、約三年かかっています。SARSウイルスが早く検出されたのは二つの大きな要因があると思います。一つはウイルスに感染した人が的確につかめたことと、二つ目に研究者が普段使う培養細胞でSARSウイルスを増やすことができたことです。これにより研究者は簡単にSARSウイルスを手に入れることができ、多くの研究が急速に進んでいます。

 これまで、SARSウイルスはコロナウイルスの一種であることが分かりました。コロナウイルスは太陽から出るコロナ(光冠)のような形をしていることから名付けられています。実は、コロナウイルスにはほとんどの人が感染した経験を持っています。風邪にかかる時の一般的なウイルスだからです。SARSウイルスは、いま知られている、このコロナウイルスとは違うことも分かりました。

 いま知られているコロナウイルスは大きく三種類に分類されています。SARSはいずれにも属さず、まったく新しいウイルスであるとされています。現在明らかにされた報告では、ジャコウネコやタヌキに感染しているコロナウイルスに、SARSに非常によく似たものが発見されています。SARSはジャコウネコ科の野生動物から食肉処理を通じて感染したと考えられています。確定はされていませんが、いまのところSARSの由来についての一番有力な説だと思います。またSARSウイルスは、実験的にサルに感染することも分かっています。

 こうしてSARSウイルスの性質がかなり分かってきました。どうしたらSARSウイルスを殺せるかですが、熱に弱く、煮沸すれば確実に殺せます。七〇?八〇%のアルコールや漂白剤でも殺せます。石けんでの手洗いも有効です。

 今後は、診断法を確立する必要があります。診断の基礎となる抗体検査や抗原検査は方法論的に確立されていますので、そう遠くないうちに迅速で簡便な診断法が広く用いられるようになると思います。

 次に治療法ですが、ワクチンか抗ウイルス剤を開発する必要があります。いずれも四年から六年かかるでしょう。ワクチンや抗ウイルス剤が可能かどうかはすぐ分かると思いますが、動物実験などで安全性や有効性を確認する必要がありますので、実用化には時間がかかると思います。トロントでいったん封じ込められたウイルスが、再発した理由の解明も治療法の確立に大切でしょう。

 冬になるとSARSが流行するのではと心配する人がいますが、空気感染するインフルエンザとは違いますので、そう心配ないのではと思います。ただ正確には冬になってみないと分かりません。

 日本では今までに患者は発生していませんが、これは単にラッキーだったということだと思います。いつ患者が出てもおかしくはありません。正しい知識を持って、患者が発生しても冷静に対処してください。