肥後医育塾公開セミナー

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平成15年度 緊急フォーラム「新型肺炎?SARS?にそなえる」

【講師】
熊本大学大学院医学薬学研究部呼吸器病態学分野助教授
管 守隆

『「SARSの病態と臨床診断」 』
症状の特徴は急な発熱


   SARS(サーズ=重症急性呼吸器症候群)の発生状況を見ますと、まず中国ではこれまでに五千人を超す人がSARSにかかりました。毎日数百人の患者が発生していましたが、最近はだいぶ少なくなり、数十人から数人までになってきています。一方、台湾は中国より遅れて患者数が増えましたが、五月の終わりになって落ち着いてきています。カナダはいったん発生が収まったものの、再び発生していて今後が心配されます。

 SARSは、患者のタンや唾液などの分泌物の飛沫(ひまつ)を通して感染することが分かってきました。また、患者と密接な接触によって感染すると考えられています。一時は空気感染も考えられましたが、その可能性は低いようです。香港ではSARSウイルスに汚染された排水によって感染が広がったケースもあったようです。

 潜伏期間は通常三日から五日間と考えられています。早い人は二日で発症し、遅い人は発症までに七日とか八日かかる人もいます。ですから疑わしい場合でも十日以上発症しなければ、感染しなかったと考えてよいでしょう。

 厚生労働省が五月十九日に出した指針では、症状のある患者だけに感染性があり、症状が出ていない人からは感染しないとされています。ほかに、患者と二メートル以内での会話、介護や看護、同居、体液や気道分泌物に直接触れるなどの濃厚な接触がなければ感染しないことも示されました。これが本当に正しいのかどうかは証明されていませんが、かなり濃厚な接触をしないと感染しないことは間違いないようです。シンガポールでは一人で百七十二人に感染させたケースもあり、こうした患者を発生させないことがSARS抑制に重要です。

 SARSにかかると、まず発熱や悪寒、筋肉痛などの全身症状が出ます。ほかに呼吸困難も多くの患者に出ています。風邪では、のどの痛みや鼻水が最初に出ますが、SARSでこのような症状で始まることは少なく、急な発熱が大きな特徴です。

 SARSにかかると肺炎を起こすわけですが、香港の三十一歳の患者の例を見ますと、発病して二日目のレントゲン写真で右の肺に影があり、肺炎であることが確認されました。その後、左肺にも広がりましたが、一週間後にはほとんど影はなくなり回復しました。患者のうち約八割の人がこうした経過をたどります。残りの二割の人は重症化して肺全体が侵されてしまいます。

 高齢者や糖尿病などの病気を持っている人が重症化する可能性が高いことがわかっています。

 治療では抗生物質が効かないため、肝炎ウイルスの薬と炎症を抑えるステロイド薬が使われています。

 もしSARSが熊本に上陸したら、外出時にはマスクを着用し、入念に手洗いをしてください。そして、疑わしいと思ったら直接病院に行くのではなく、まず保健所に電話で相談してください。過剰反応せず冷静になることが大切です。