肥後医育塾公開セミナー

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平成14年度 第3回公開セミナー「高齢者と難聴」

【講師】
奈良県立医科大学耳鼻咽喉科教授
細井 裕司

『最近の補聴器の進歩とその使い方 』
自分に合った補聴器を


   補聴器は音を大きくし、聞こえを助ける道具ですが、眼鏡と同様、それぞれ自分に合ったものを選ぶことが大切です。

 「補聴器を通信販売で買った」「敬老の日に孫からプレゼントされた」―というような話をよく聞きますが、こうした選び方は補聴器を使う上では、あまり好ましくありません。

 「軽度の難聴なので補聴器は要らない」「もっと聞こえづらくなってからにしよう」という考えも誤りです。補聴器を使うべきか否かは、補聴器の装着によって生じる"利益と不利益の綱引き"で決まります。ここでいう利益とは「言葉が明瞭になった」「小さな音も楽に聞こえる」「警告ブザーなどの音が分かるので安心」など。一方、不利益としては「雑音が気になる」「言葉がはっきりしない」「格好が悪い」「操作や装着が面倒」「費用がかかる」などが挙げられます。これらを検討した結果、利益が不利益を上回れば、軽度の難聴でも補聴器を装着した方が良いでしょう。

 補聴器を購入する際には、耳鼻咽喉科の受診から始めることが大切です。耳鼻咽喉科では、医師と認定補聴器技能者(補聴器の専門家)が協力し、医学と機器の両面からそれぞれの難聴に適した補聴器の機種が決められます。テレビやラジオなどの家電製品は買ってすぐに使えますが、補聴器はそういうわけにはいきません。補聴器を選んでもすぐにその人に合うとは限らず、検査と補聴器の調整を繰り返さなければなりません。具体的には言葉がはっきりと聞き取れるかどうかを調べる「語音明瞭度検査」などを行い、調整していきますが、時には実生活での使用を考えて、わざと雑音を流して聞こえ具合を調べます。補聴器には形やメカニズムの違いで多くの種類がありますが、どのタイプを選ぶかは、難聴の性質や本人の希望、実際に操作が可能かどうかなどを考慮して決められます。

 補聴器を形で分けると「箱形」や「耳掛け形」「耳あな形」などがあります。箱形はコード付きのイヤホンと本体が分かれているタイプで、操作が簡単な上、バッテリーの寿命が長くて経済的です。また、耳の後ろに本体を掛けて使う「耳掛け形」は、マイクロホンが耳の近くにあり、スイッチやボリューム操作ができるようにつくられています。「耳あな形」は文字通り、耳の穴に入ってしまうタイプです。一方、メカニズムの違いではアナログ式とデジタル式に分けられます。アナログ式は従来型に多いもので、信号を電気回路で増幅し、ネジを回して聞こえ具合を調整します。デジタル式は一般的にアナログ式よりも高価で、信号処理や調整をコンピューターで行い、聞こえを細かく設定できるのが特徴です。

 最近の補聴器は「小型化」「ノンリニア化」「マルチメモリー化」の方向に進化を続けています。小型化は、耳の穴に入ってしまうほど進んでおり、なかには外からはほとんど目立たないものも発売されています。「ノンリニア型」は、音の大小によって自動的に増幅率を変化させるもので、聞きやすさが大きくアップしました。また、一つの補聴器で複数の補聴器特性を記憶・設定できる「マルチメモリー型」は、例えば、家の中、事務所、屋外など、周囲の状況に合わせ、最適の聞こえを選択することが可能です。

 今では防水型の補聴器も登場し、プールでの使用も可能になりましたが、今後の課題は二つあります。一つはどんな環境下においても、どんなタイプの難聴の方でも言葉が明瞭に聞き取れる補聴器の開発です。もう一つは、現在は人口内耳手術しか方法のない最重度難聴の方に対しても、聴力を取り戻してあげられるような補聴器の開発です。われわれは、超音波を利用して、全く音が聞こえない方でも使用可能な補聴器の開発に取り組んでいます。