肥後医育塾公開セミナー

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平成14年度 第2回公開セミナー「目の老化と病気に立ち向かうために」


患者ボランティア
森田 茂樹

『「患者から見た目の病気」』
視力障害者に情報必要


   私は網膜色素変性症の患者です。平成五年に発症し、仕事が全く不可能になり、平成六年退職。平成八年に身体障害者手帳を取りました。当時視力は右0.06、左0.08でしたが、現在は両眼とも0.03です。

 私は、読み書きができない状態に陥った時、「いつか見えなくなる」ということより「今、読み書きができない」ということに非常にショックを受け、落ち込みました。それが三年ほどたった時、偶然、拡大読書器という補助具の存在を知りました。手に入れてみると、何と、楽に読み書きができたのです。これにはうれしいより先に、腹が立ちました。三年間も私は、この機械の存在をどこからも知らされなかったからです。

 今の私は、健康な時とほとんど変わらないくらい速く読み書きができます。これは私が特別器用なのではなく、ほとんどの人にできることなのです。しかし、かつての私のように、いまだにたくさんの人が情報のない状況下におられるだろうと思い、平成九年十一月、自宅に私設の拡大読書器展示ルームを設けました。平成十年四月からは京都大学病院でロービジョンケアを担当し、今では四つの病院と、不定期で二つほどの病院で補助具の種類と選び方、使い方、助成申請の仕方、ときには年金についての信頼できる相談先のご紹介など、各種相談に応じています。

 現在、日本では約四十機種の拡大読書器が売られています。その中には、構造上文字を書くことができないものもあり、不幸にしてこれを選んだ人は、字を書く能力があるのに、書くことができません。こういう機械がまだ売られ、勧められているのは、情報が公的機関に十分いきわたっていないからでしょう。また、幸運にも情報を得て字を書ける機械を入手しても、使い方を説明している場所は、私の知る限りほとんどありません。そのため、大半の人は十分に使いこなせないというのが現実です。

 私はこれまで700人を超える視覚障害を持つ人に会い、さまざまな補助具をご紹介してきました。私の直感的な数字ですが、片眼が0.01以上あれば、特殊な視野欠損でない限り、恐らく九割以上の人は補助具を使って読み書きができると思います。

 適切な補助具を選び、正しく使えば、できないと思っていたこともかなりできるようになり、今後の生き方が格段に変わると思います。皆さんも視力の低下した人に会うことがあったら、ぜひ情報提供をお願いします。これが私の行っているロービジョンケアであり、私が一番お伝えしたいことです。