肥後医育塾公開セミナー

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平成14年度 第2回公開セミナー「目の老化と病気に立ち向かうために」


京都大学医学部付属病院探索医療センター
高橋 政代

『「基礎研究から見た目の病気」』
研究続く新しい治療法


   現在、失明につながる病気の治療法は、ずいぶん確立されてきましたが、残念ながら医学の力が及ばず、手のほどこしようがない難しい病気もあります。しかし新しい治療法の研究は続けられていますので、その一端を紹介します。

 加齢黄斑変性は、加齢により網膜の黄斑部の裏側に新生血管がはえてきて出血し、網膜が水ぶくれのように浮き上がり、視力が極端に落ちてしまう病気です。

 現在、さまざまな治療法がありますが、そのどれもが、視力低下を完全に防ぐことはできません。例えばレーザーで新生血管を焼く方法では、焼いた部分は二度と見えるようにはならないのです。大部分の人は治療しても矯正視力が0.1ぐらいに下がってしまいます。ただし、これは黄斑部だけの視機能が落ちる病気で、全体が見えなくなることはありません。

 最近では低線量放射線治療や温めて新生血管を縮ませる経瞳孔的温熱療法(TTT)、光に反応する色素を血管に注射してレーザーを当て新生血管を縮める光力学療法(PDT)などが試されています。また手術では、新生血管を取り除く新生血管抜去術、黄斑移動術が実際行われ、さらには網膜色素上皮細胞を移植する研究も行われています。

 網膜色素変性は、加齢とは関係なく、遺伝子異常によって光を受け取る視細胞が次第になくなる病気です。網膜に色素が沈着して端の方から灰色に変性し、次第に視野が狭くなります。現在、進行を止める方法は全くなく、失明に至ることが多い病気です。

 しかし新しい治療法が考えられないわけではありません。視細胞移植の研究は1980年代から続けられていますし、遺伝子治療、人工網膜、網膜神経細胞移植などが研究されています。

 遺伝子治療は、動物実験では視細胞を残すことができる段階までになっています。ただし、この方法は劣性遺伝タイプの人にしか使えません。

 人工網膜の研究は、かなり進んでいます。小さなチップを網膜に移植し、それで光の信号を脳に伝えるという方法です。

 神経細胞移植は、うまくいけば失明から逃れるために有用であるかもしれません。まだ動物実験段階ですが、十年、二十年後には治療法として使える可能性はあると思います。

 このように、状況はどんどん変化しています。しかし、視力に障害がある人は、新しい治療法を待っているだけではなく、補助具や各地で行われているロービジョンケアなどを利用し、残った視力を有効に使ってほしいと思います。