肥後医育塾公開セミナー

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平成14年度 第2回公開セミナー「目の老化と病気に立ち向かうために」

【座長】
熊本大学医学部眼科学講座教授
谷原 秀信

『「失明につながる目の病気〜緑内障や糖尿病網膜症の怖さ〜」』
早期発見・治療が大切


   目の病気は非常にたくさんあります。その中には恐ろしい病気もあれば、それほど心配しなくてもよいものもあります。また、今の医学は二十年前と比べると本当に進歩しており、きれいに治療できる病気もたくさんあります。まず、よくある目の症状を紹介します。

 飛蚊(ひぶん)症は、字の通り虫が飛んでいるように見える症状です。加齢(老化)現象の一つで、目の中の硝子体に濁りができ、光が目の中に入った時に、その影を見てしまうものです。眼底の病気で飛蚊症が出ることもあるので、急に飛蚊症がひどくなった時は眼科の専門医に診てもらったほうが安心です。
 はやり目(流行性角結膜炎)は、目が充血し、目ヤニがだらだら出る病気です。代表的な原因はアデノウイルスによるもので、極めて伝染しやすく、気をつけないと家族や友人にどんどん広がります。しかしきちんと治療すれば、失明することはほとんどありません。

 結膜下出血は、白目部分がべっとりと絵の具ではいたように赤くなる病気。加齢により弱くなった白目の血管が、何かのはずみで破裂して出血したものです。出血は二週間―一カ月ほどで自然に吸収されます。見た目は派手ですが、これで失明することはありません。

 翼状片は、黒目の中に白目の皮が張ってくる病気です。これも目の中とは関係ないので、大きくなって瞳孔(ひとみ)にかかる前に切除すれば、失明することはありません。

 このように、いろいろな病気がありますが、失明につながる病気はまれです。しかし、医学が進んだ現代でも、残念なことに日本では毎年一万数千人もの人が失明しています。その二大原因は、糖尿病網膜症と緑内障です。

 日本には糖尿病患者が約六百万人いるといわれます。そのうちの四割、約二百四十万人が糖尿病網膜症を合併しており、毎年約三千人が失明していると言われています。その原因の一つは、「糖尿病などたいしたことはない」「自覚症状がないので大丈夫」などという、本人の誤解、無理解から、手遅れの状態になるまでほっておく人が多いためです。

 糖尿病網膜症になると、目の中の正常な部分に出血や白斑が生じ、最終的には網膜はく離など失明につながる恐ろしい事態になります。

 最初は、網膜にタンパク質などがにじみ出てきたり、出血が生じたりしますが、自分では気がつかず、視力や視野も変わりません。しかし進行して出血範囲が広がると、網膜が腫れ、目がかすんでよく字が見えなくなります。さらに進行すると、増殖性の糖尿病網膜症になり、網膜の外にできた異常な新生血管が破れて大出血を起こします。こうなると失明のリスクがある状態で、緊急もしくはそれに準じた手術となります。しかしそれでもなお悪化させてしまうと、ついには失明に至ります。

 緑内障は眼圧(目の硬さ)が高くなり過ぎて視神経を弱め、視野が次第に狭くなり失明につながる病気です。

 特に急性緑内障発作は、急激に眼圧が高くなる状態で、吐き気、頭痛など非常に強い症状が出てきます。しかし治療自体はそれほど難しいものではなく、レーザーで目に小さな穴を開けて眼圧を下げてやると劇的に良くなります。

 日本人に多いのは慢性に徐々に進行する緑内障です。四十歳以上の患者の約三十人に一人は、レーザー治療でも眼圧が下がらず、数年、数十年かけて視神経が真綿で首をしめられるように弱くなり、視野が欠けてきます。これも早期の発見と治療が大切で、目薬で眼圧をきちんとコントロールしなければなりません。なぜなら、いったん欠けた視野はもとに戻らないからです。「まだ見えるから大丈夫だ」などと、自己判断してほっておくのは危険です。気付かないうちに次第に視野が欠け、視力がなくなります。そうなる前に、残った視神経を守る努力をしなければ取り返しがつきません。

 また、クオリティーオブビジョン(見え方の質)を高めるためには、内科と眼科、あるいは眼科の開業医と大学病院との連携も重要でしょう。医者の個人的経験に基づくよりも、科学的根拠に基づいて安全で確実な治療法を選ぶこと、そしてすでに悪化した人に対しても、悪くなった視力や視野を前向きに使うための支援の取り組みであるロービジョンケアが重要視されてきています。

 失明する病気があることは事実です。しかし病気を恐れるのではなく、それをよく理解し、病気に正しく向き合ってほしいです。

 物が見えるということは、満足のいく人生を過ごすために非常に大事なことです。失明につながる怖い病気治療の大原則は、早期発見、早期治療に尽きると思います。