肥後医育塾公開セミナー

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平成14年度 第1回公開セミナー「皮膚と心」

【講師】
総合母子保健センター愛育病院皮膚科部長
山本 一哉

やまもと・かずや 

1931年愛知県生まれ。55年慶応義塾大学医学部卒業。59年米国ウエスタンリザーブ大学医学部皮膚科留学。65年慶応義塾大学皮膚科講師、同年国立小児病院皮膚科医長に就任。91年岩手医科大学医学部皮膚科客員教授。96年より現職。専門分野は小児皮膚科学。テレビ出演、著書多数。

『「こどものアトピーと家庭」』
治療に重要な家族の強力


   皮膚病が内臓の病気と比べ違うのは、皮膚が体の一番外側にあるため、だれにでも病気の症状、状態が見えるという点が挙げられます。それだけに目立つ病気といえますし、医者でなくても、治った、治らないがおおよそ判断できます。そのことを頭に入れていただいて話を進めたいと思います。

 子どもの皮膚病患者の約75%が5歳以下で占められ、そのうち50%は2歳以下です。小学校に上がるくらいの年になれば「ここが痛い、あそこがかゆい」と自分で症状を言えますが、2歳の子どもではそうはいきません。病院へ通うことはもちろん、体のどこがどう悪いのかさえ言えないのです。ということは、周囲の人、家族の理解が治療のカギをにぎることになります。幼児の世話の大部分は母親がしているでしょうから、とりわけ母親が重要な役割を担うことになります。母親は症状を訴える子どもの代弁者、治療具合の管理者とならなければなりません。そうしたこともあって治療に子どもを連れて来る母親は、子どもの皮膚病のことで頭の中がいっぱいで、客観的に症状を観察することや、周りの助言を受け入れることが、なかなかできない精神状態の人が多いものです。そうした母親の気持ちを和ませてやり、"ゆとり"を持たせてやるのが治療の第一歩となります。母親と心の交流を図りながら治療にあたっているわけです。少なくとも私の場合はそういう手順を踏みます。母親の気持ちにゆとりが出てくると、家庭も和やかになり、治療効果も上がります。一方、嫁姑のトラブルなど、うまくいっていない家庭の子どもは、なかなか治りにくいものです。子どもの皮膚病の治療には、母親の理解と家族の協力が何より重要です。

 「アトピー性皮膚炎」という病名は、日本人なら知らない人がいないくらいポピュラーになっています。しかし、明確な診断基準ができたのは数年前のことで、今でも、正確な診断は難しい病気です。非常に専門的な病名で、知らない人がいないというのは、専門医の立場からすると奇異な感じがします。

 アトピー性皮膚炎には四つの特徴が挙げられます。第一点はかゆみがあるかないかです。それが診断の大きな分かれ道になります。二番目は、成長によって患部が移る点です。赤ちゃんの時は顔にあったのが大きくなるにつれ体の下の方に移動していきます。第三の特徴は、治りにくいということが挙げられます。四つ目には、近親者にぜんそくなどアレルギー性の病気の人がいる場合が多いという点です。

 アトピー性皮膚炎の予防に限らず、皮膚病を避けるには、赤ちゃんが生まれたその日から肌のケアをしてあげてください。乾燥した冬は、大人でも肌が荒れるものです。皮膚の弱い赤ちゃんなら、なおさらです。ケアに使うのは医薬品でなくても結構です。普通の乳児用の乳液やスキンケア用品で構いません。お母さんの手のひらに、五円玉くらいの量を出し、肩から指先までさするように腕に塗ってあげてください。決してこすったり、強く塗ったりしてはいけません。その要領でもう片方の腕、両足、胸と腹、背中、顔に塗ります。毎日続ければ、多くの皮膚病が防げます。タオルなどで汚れを落とすときは、ふきっぱなしはいけません。押さえるようにして汚れを取り、その後ケアしてあげてください。お風呂の温度も重要です。熱い風呂は、肌を刺激して好ましくありません。38度が適温で、長湯させず早めに上げるのがコツです。

 もし皮膚病になり、塗り薬をもらったら、決められた用法、用量をきちんと守ってください。塗り方にも気を使ってください。薬は使い方によってずいぶん効き目が違うものです。間違った使い方は論外で、正しい用量、方法で思いやりを込めて塗ると、同じ薬でもよく効きます。私の多くの経験と実例からのアドバイスです。

 幼稚園や保育園に通っている子どもの場合、家庭でいくら皮膚病の管理をしても、そうした施設で管理できなければ元も子もありません。家庭に加え地域社会の重要性を痛感しています。家庭を含めた地域社会が正しい皮膚病の知識を持ち、対処できれば、子どもの皮膚病は少なくなるのではないでしょうか。