肥後医育塾公開セミナー

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平成13年度 第1回公開セミナー「子どもの心のケア」

【コーディネーター】
熊本大学医学部発達小児科教授
三池 輝久

みいけ・てるひさ 
昭和43年熊本大学医学部卒。52年米国ウエストバージニア州立大学神経病理に留学。59年から現職。専門は神経および筋肉疾患、精神運動発育障害など

『疲れいやす時間十分に』
不登校の子どもに対する医学的見地


   わが国では、一般に不登校の子どもたちは「病気ではない」とされています。しかし、不登校の子どもたちを診断すると、自律神経の機能低下やホルモンバランスの異常、睡眠障害など、明らかに病気ととらえられる症状が隠されています。

 一九九九年の全国調査で、五歳以上の子どものうち、五・六%が何らかの心の問題を抱えているという結果が出ました。特に十五歳以上では、この割合が跳ね上がり、「頭痛」や「腹痛」「睡眠障害」などを訴えるケースが多くなります。これらの子どもたちをよく調べてみると、視床下部の深部体温調節機能に異常が見られることが分かりました。これにより、脳の機能が低下、生活のリズムが狂って、学校に行きたくても行けない場合が出てくるのです。

 これらの症状は、子どもたちの心の疲れと密接にかかわっています。慢性疲労をテーマにした国際会議で、オーストラリアやアメリカ、イギリスの小児科医は、不登校の子どもたちを「小児型慢性疲労症候群」、つまり病気の状態にあると位置付けています。私もこの意見に賛成で、不登校の子どもたちを、医学的な立場から早急に支援すべきだと思っています。幸い、今年から厚生労働省が「小児型慢性疲労症候群の原因解明と治療開発」について研究班を立ち上げます。これを機に、多くの人が不登校という非常に難解な問題に興味を持ってほしいと思います。

 不登校を防ぐには、子どもたちに疲れた体と心をいやす時間を十分に与えることが大切です。しかし、現実には子どもたちはゆっくり休養することさえままならない状況にあります。学校を休むと勉強に遅れが生じるのではないかと必死にしがみつき、次第に問題を大きくしてしまうのです。

 もし、「自分の子どもは絶対に不登校にならない」と考えている人がいたら、それは大きな間違いです。勉強や部活動に熱心で、一見、不登校とは縁遠いと思える生徒でも、不登校は起こり得るということを認識しなければなりません。