肥後医育塾公開セミナー

肥後医育塾公開セミナー
肥後医育塾公開セミナー

平成13年度 第1回公開セミナー「子どもの心のケア」

【講師】
国立菊池病院院長
弟子丸 元紀

でしまる・もとのり 
昭和39年熊本大学医学部卒。44年同精神科助手。52年国立菊池病院重症心身障害児病棟勤務。平成9年熊本大学医学部精神科臨床教授を兼任。11年から現職

『不登校は心身疲労のサイン』
子どもはじっと耐えている?ストレスでの心身の反応


   『子ども白書』によれば、「生まれてこなければよかった」と思ったことがある子どもは小学三年生で三四%、中学三年生では三八%にも上ります。また、中学・高校生の三六・七%が「自分が分からない」と答え、「現実と想像の区別がつかない」という生徒も二三%います。子どもたちの心がいかに不安定な状態にあるか、お分かりになるでしょう。

 現在の子どもたちは学校や家庭で非常に多くのストレスにさらされており、その結果、自律神経失調症や不安状態を示し、不登校に陥るケースが増加しています。

 ストレスを受けると、子どもたちは「困難な状況を避ける」「状況に従い、じっと我慢する」「頑張って乗り越えようと立ち向かう」などの方法で対処します。しかし、ストレスが慢性的になれば、その対処姿勢が習慣づけられ、子ども自身の人格形成にも影響を与えかねなくなります。

 不登校状態の意味は、子どもの心身疲労の状態での救助サイン。不安からの逃避、すなわち自己防衛行動。また、空気抜き・安全弁の作用、またやさしい子どもの家庭内調整作用でのしわ寄せとしての不登校などがあります。
 不登校の状態になり自宅に「引きこもり」になると、大きな不安を抱え込むことになります。それは「身体的苦痛の不安」「心理的不安」「社会的不安」「存在の不安」などがあります。

 身体的苦痛は慢性的なストレスによってもたらされる頭痛・腹痛などの身体症状です。この症状は治療ができます。心理的不安は情緒的不安定ですが、ときには親に対する反抗などの行為となって表れる場合があります。その行為自体をみると悪い反応ですが、学校に行けない自分を責める自責感または怒りの感情などから、どうすることもできずにあえて自分自身を守るためにしている、ということを理解してください。

 社会的不安は自分の「所属感」を失う状態であり、家庭や学校での居場所を見つけることが大切になってきます。また、存在の不安には自己存在の不安であり、生きる自信を持つこと、つまり「有能感」を与えてあげることが必要です。それぞれの不安を改善するためには子ども、親、教師の三者の信頼関係が非常に重要になります。

 子どもは本来、不登校になっても自分自身の力でそれを乗り越える力を持っています。問題を解決することによって対処方法を学び、社会に出たあとも困難をうまく乗り越える力を身に付けるのです。不登校からの回復は「自分くずし」と「自分づくり」ともいえるでしょう。今までの自分とは異なる自分に気づくことさえあり、また不登校時に家庭内暴力などで示していた膨大なエネルギーが今後の生活を切り開く力ともなります。

 一方、不登校を通じて大人が学ぶべきこともたくさんあります。優しいだけとか、厳しいだけなどの一面性ではなく、思春期の子どもに対応できるよう、親にも多面的対応が必要です。自分自身の子ども時代を思い出して、子どもの立場になって考えてください。

 子どもは大人の小型ではなく、心身ともに非常に未熟で、親に依存しなければ生きていけない存在です。子どもにとって家庭は"ベースキャンプ"と言ってもよいでしょう。家で伸び伸びと過ごし、親に話を聞いてもらうことで、安心し、毎日の学校生活が送れるのです。