肥後医育塾公開セミナー

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平成13年度 第1回公開セミナー「子どもの心のケア」

【講師】
鳥取大学教育地域科学部教授
小枝達也

こえだ・たつや 
昭和59年鳥取大学医学部卒。平成2年同附属脳幹性疾患研究施設助手。7年同附属病院講師。8年同附属脳幹性疾患研究施設助教授。11年から現職

『「自己肯定感」を育てるのが大切 』
行動上のトラブルに対する理解とケア


   人の行動を決める心の反応には、充足感によって表れる「快反応」と、苦痛などの場合の「不快反応」があります。乳児期の子育ては「いかに早く不快反応を取り除くか」ということが大切です。

 といっても、母親は無意識のうちに、この方法を知っています。例えば、おしめがぬれて赤ちゃんが泣くと、急いで取り換えます。これは赤ちゃんの不快反応を取り除いているのです。ところが、子どもが成長し、自分の意思で行動するようになると、子どもの不快反応を取り除くだけではうまくいかないようになります。子どもに、好き勝手に行動するだけではいけないということを教えなくてはいけません。つまり、「しつけ」が必要になってくるのです。

 子どもの成長過程で、「落ち着きがない」など、「行動上のトラブル」が表れてくることがあります。

 行動上のトラブルは、子どもの「素因」、つまり、生まれながらに持っている先天的な要因と、家庭や学校など本人を取り巻く「環境」によって作られた後天的な要因が、ある一定の水準に達した時に表れてきます。多かれ少なかれ、どの子どもも先天的な要因を持ち合わせており、後天的な要因をいかに作らないかが、行動上のトラブルを防ぐカギになります。

 行動上のトラブルを防ぐためには、物事に集中させる訓練が必要です。このためには落ち着いた環境を作ってやることが大切。テレビをつけたまま夕食を取るような行為は、子どもに集中力を欠く訓練をしているのと同じことです。そんな環境で育つ子どもにさらに「気が散りやすい」という素因があった場合、「落ち着きがない」といったトラブルが生じてきます。

 行動上のトラブルを起こす原因の一つに「自閉症」や「精神遅滞」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「学習障害」などの発達障害が挙げられます。これらは「素因」が大きく関係しており、早期に発見して、対処することが重要です。

 なかでもADHDは早期発見が難しい病気です。「話に集中できない」「動き回る」といった行動に気づかないまま学童期を迎えると、高学年になって学校不適応や心身症などを併発。さらに一部の人は社会への不適応にもつながります。

 一般に、「素因」の大きい子どもの場合、子育ては難しいといわれます。会話やスキンシップも少なくなりがちで、行動そのものを禁じてしまう場合も多く、その結果、逆に子どもの反発を招いて行動上のトラブルを増幅させてしまいます。これらへの対処には、本人の「素因」がどれほどの影響を与えているかを見抜く力が必要です。

 トラブルに対して本人の「素因」の影響が大きいと感じた場合、接し方に工夫が必要です。幼児期から学童期にかけて落ち着きがない子どもには、本の読み聞かせが非常に効果的です。子どもが寝る前に腕枕をしながら読み聞かせするのもいいでしょう。本の読み聞かせを続けることによって人の話に耳を傾ける習慣が身につき、言葉の因果関係を学びながら話を理解するようになります。寝る前に子どもと一緒に過ごす時間を持つだけでも、心に変化が表れてきます。

 生活する上で、親が主導権を握ることも大切です。例えば、物を欲しがってぐずった時に、一度だめだと言ったら覆さないこと。「気持ちはよく分かるよ」と言葉をかけ、共感することで子どもも理解してくれます。子どもが乱暴に振る舞ったり、パニックを起こしている場合、場所を移して落ち着かせることが先決です。その後で、ゆっくり話して聞かせましょう。

 大切なのは、「自己肯定感」を育てることです。自分の存在を肯定できる子どもに育てることが、思春期以降の行動を決めるといっても過言ではないでしょう。