肥後医育塾公開セミナー

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平成12年度 第2回公開セミナー「がんはどこまで治せるか」

【講師】
熊本大学医学部第三内科助教授
藤山 重俊

『がんの治療はどこまで進歩したか?肝がん撲滅をめざして?』
優れた内科的治療も


   最近、わが国の肝がん患者の数が増えてきていることが指摘されています。胃がん、大腸がんよりも少し予後が悪いともいわれます。

 肝臓がんを大きく分けると、肝臓にもともとできる原発性肝がんと、ほかの臓器のがんからの転移性がんの二通りあります。原発性肝がんには、肝細胞がん、胆管細胞がんがありますが、95パーセント以上は肝細胞がんです。したがって、これからの話は、肝がんとは肝細胞がんということで理解ください。

 肝がん患者は、ベースに肝硬変のある人が約七割、慢性肝炎や肝線維症の人もいます。すなわち、肝がん患者百人のうち95人には何らかの慢性肝疾患があるということです。もう一つのわが国の特徴は、肝がんの90パーセント以上は肝炎ウイルスの持続感染が原因です。患者の75パーセントから80パーセントがC型肝炎から肝がんになっています。B型肝炎からの移行者も約10?15パーセントを占めます。

 B型肝炎とC型肝炎の感染経緯を見ると、B型肝炎は、ほとんどは出生時に母親から感染するか2?3歳ごろまでの感染でキャリアになります。昭和61年からは、ワクチンなどで母子感染はほぼ完全にブロックできるようになりました。C型肝炎の場合、患者の三人に一人は過去の輸血により感染しています。三人に二人は慢性化し、進行して肝硬変、さらには肝がんに至ります。慢性肝炎、肝硬変、肝がん、いずれも見つかったときの年齢がB型肝炎に比べて十歳以上高年齢層に分布していることが大きな特徴です。

 肝がんで亡くなる人は、1975年を境にして右肩上がりに増えています。最近では、毎年3万4千人くらいになっており、この傾向は今後5?10年は続くだろうと予測されます。今から20?30数年前に輸血などでC型肝炎にかかった人が、慢性肝炎や肝硬変を経て肝がんになっていることを反映しているものと理解しています。

 肝がんの治療は、外科的に切除してしまうのが最も確実です。ただし内科的にも、経皮的エタノール局注療法、マイクロ波でがんを焼いてしまう凝固療法、経カテーテル肝動脈塞栓(そくせん)療法や抗がん剤動注化学療法などがあります。さらに今後は、わが国でも肝移植が行われる方向付けが示されています。

 最近では内科的治療でも手術に優るとも劣らない治療成績が得られてきました。なかでも、私たちは、一年ほど前から、『ラジオ波熱凝固療法』という、がんに直接針を刺してラジオ波によって10分間くらい100度にして焼いてしまう治療を行っています。この方法だと直径3センチまでのがんなら二回、2センチまでなら一回の治療で終わります。非常に優れた治療法であり、来春には保険適用になる予定です。

 肝がんにならないためにはどうしたらいいか。慢性肝炎や肝硬変がある人、B型肝炎やC型肝炎ウィルスのキャリア、55歳以上の、特に男性の場合は肝がんになりやすいことが分かっていますので、画像診断と腫瘍(しゅよう)マーカーを定期的に診ていって早期に診断することが大切です。なかでも、C型肝炎は、がんになりやすいグループとしてピックアップし、重点的にフォローしなければなりません。

 1992年春からC型慢性肝炎にインターフェロンが保険適用となり、すでに20数万人が投与を受けています。三割の人はウイルスも消えて肝機能も正常になりました。また一割の人はウイルスは消えないけれども肝機能は正常になっています。残念ながら三割くらいの人は、ウイルスも消えず、肝機能もそれほどよくなっていません。

 この10?20年の間にがんの診断や治療法は格段に進歩しています。今後はさらに進んでくるでしょう。定期的に通院していただきたいと思います。