肥後医育塾公開セミナー

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平成20年度 第1回公開セミナー 「脳卒中のリハビリテーション」

【講師】
熊本託麻台病院院長
平田 好文

『回復期リハビリテーション』
「生活訓練」から集中的に 食事では「利き手交換」も


  脳卒中の治療は、一刻も早く行うことが鉄則です。発症後、時間がたつほど脳の障害は大きくなり、後遺症も重度になります。

 急性期で重要なことは「安静にさようなら」です。点滴などの安静治療をなるべく早期に終わらせ、リハビリ開始へバトンタッチしてください。

  回復期リハビリ専門病院への転院ですが、熊本県では平均14日。全国平均が30―40日ですから、かなり早いのが特徴です。医療連携がうまくいっている一例といえましょう。ただ、ここで注意しなければならないのは、回復期リハビリ専門病院には、発症から二カ月以内でなければ入れないことです。期間も疾患で決まっていて、最長で六カ月。これは私たちが決めたものではなく、国のルールとして定められています。

  私たちの経験上、1人で歩くことのできる軽度障害の患者さんのうち約9割が入棟後1―2カ月で退院し、帰宅されます。また、歩くことはできなくても、一人で座れる、立てる。車いすを利用できる―といった場合は、平均三カ月ほどで退院されます。しかし、重度になるとなかなか難しく、専門病棟の医師だけではなく、維持期病院のリハ医と連携して後期のリハビリを行うことになります。

 リハビリで最も大切なのは生活訓練です。理学療法士、作業療法士らがチームを作り、患者さんと一緒になって、障害を来した機能の回復、維持を図り、生活の質を保てるよう努めます。プログラムは、移乗動作・更衣訓練、装具の使い方、平行棒訓練から調理訓練までさまざまですが、あくまで患者さん個人の症状に応じて作成し、集中的に行います。

 ご家族に「患者さんが帰宅するには、どのようになれば良いですか?」と尋ねると、多くが食事とトイレ利用の自立を挙げられます。食事訓練では、利き手交換や使いやすい自動具の利用のほか、食べ物をうまく飲み込めるかどうかの嚥下障害を確認し、その程度に応じた訓練を実施。トイレに関しては、車いす操作だけでなく、多くの動作の訓練が必要です。

 患者さんと、どのように接すると良いでしょう。私は「患者さんの気持ちになって」と言っています。つい「頑張れ!」となりがちですが、一番つらいのは患者さん本人です。そのことで落ち込んでしまい、うつ状態になることも少なくありません。そこを乗り越えて前に進んでもらわなければ、次のステージへ進めないのです。

  病院にはメディカル・ソーシャルワーカーがいるので、入院中の悩み事を積極的に相談してください。彼らは退院のときもアドバイスをしてくれます。帰宅するプロセスで、家屋調査を行うためです。在宅になった場合、十分に、リハビリの成果が発揮できるかどうかの検討が必要です。自分でできるのに「家に帰ればまた要介護」の患者さんが少なくありません。環境づくりのための公的サービスを受けるには介護保険による認定が必要ですが、ソーシャルワーカーはその申請も手伝ってくれます。