【講師】 |
『在宅リハビリテーション』
新生活への住環境整備を 患者本人の「自立」を促す
脳卒中リハビリの流れとして、急性期・回復期に病院で行うリハビリと、退院してから行う在宅リハビリがあります。熊本ではこの連携がスムーズに行われています。在宅リハビリには訪問リハビリや通所リハビリがあります。
在宅リハビリのキーワードは「QOLの向上」と「ノーマライゼーション」です。QOLとは個人の生活や人生の満足感、充実感です。家庭復帰してからの生活が入院期間よりはるかに長いわけですから、機能回復だけでなく「QOLの向上」は非常に重要です。「ノーマライゼーション」は障害がある人もない人も、高齢者も子どもも、すべての人が同じ人として普通に生活を送る機会を与えられるべきであるという考え方です。
例えば、歩けないという理由で、ベッド上でしか食事をしないのは、「QOLの向上」と「ノーマライゼーション」の視点からは問題です。家族と食卓を囲んで食事をするのが普通ではないでしょうか。
脳卒中の方が普通に食事をするためには、ベッドから起き上がる。着替える。車いすに移る。車いすで食堂まで行き、テーブルにつく―などの一連の行為を必要とします。この行為がスムーズに行えるよう環境への工夫をして練習します。食事だけでなく、生活のあらゆる場面で、当たり前の生活を取り戻すことが在宅リハビリです。
在宅リハビリの例として私どもの施設の訪問リハビリによる生活再建のプロセスを紹介します。
退院直後は病院とは環境が大きく異なるため、まず住環境整備を行います。具体的には、体に合った車いすやベッドを選び、生活に合わせて調整を行います。また必要に応じて、玄関、居室、廊下、風呂、トイレ等に手すりを設置するなどの改修を行います。改修後の生活に慣れてもらうため本人と家族に正しい方法を指導します。私たちの研究では、このような訪問リハビリを行うことにより、患者さんの生活の自立度が退院時より明らかに向上していました。
しかし、食事、排せつ、風呂など身の回りのこと(セルフケア)だけのリハビリでは「QOLの向上」と「ノーマライゼーション」は実現できません。
私たちが行った調査では、健常な方も脳卒中になった方も、セルフケアに使っている時間は、起きてから就寝までの時間の二割以下でした。そして、脳卒中の方のほとんどが、残りの八割の自由な時間を、ごろ寝やテレビ観賞に費やしていました。こんな生活を続けると廃用症候群になり、最悪の場合寝たきりとなってしまいます。ですから、この自由な時間を活動的に過ごすためにリハビリの関与が必要になるのです。心身機能の向上や日常生活の練習だけにとらわれず、役割や楽しみを見つけることから「QOLの向上」を図り、社会とのかかわりを断たないよう、通所リハビリと連携して支援を行っています。
明るく前向きに生きていく環境を提供することが私たちの仕事だと思っています。