肥後医育塾公開セミナー

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平成20年度 第1回公開セミナー 「脳卒中のリハビリテーション」

【講師】
済生会熊本病院脳卒中センター神経内科部長兼リハビリテーションセンター部長
米原 敏郎

『急性期リハビリテーション』
可能な限り早く始めよう 寝たきり脱却が最大目標


  急性期の脳卒中は、以前は手術や薬物療法が中心で、リハビリはどちらかというと、二の次でした。しかし、生命に危険がない限り、回復を早めるためには、できるだけ早急にリハビリを始めることが重要です。大事を取って安静にばかりしていると、後々のリハビリの妨げになりかねません。

 脳卒中の症状は、脳のどこに起きたかで異なります。手足のまひが起こったり、感覚が分からなくなったり、言葉が出てこなかったり、目の症状が出たり―とさまざまです。

 脳卒中治療を専門に行う病棟を「ストローク・ユニット」と呼びますが、ここでは急性期治療の専門医や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などがチームを組んで治療を進めます。そうすることで症状の進行を食い止めるだけでなく、後遺症を最小限に抑えることができます。

 リハビリというと、損なわれた機能の回復訓練と思われがちですが、もう一つ重要なことがあります。それは残った機能を最大限に生かすこと。例えば、右手が使えなくなったら左手で補う「利き手交換」といったことです。

 急性期のリハビリは発症後可能な限り早く始めるのが望ましいため、ベッドサイドで即日、始まることもあります。床ずれ予防や手足を正しい状態に保つためのケアが手始めです。また、まひがあると手足が固まり、動かしづらくなるため、これを防ぐケアを理学療法士にやってもらいます。

 この段階での大切な役割に廃用症候群の防止があります。廃用症候群とは、何らかの理由で不活発な生活や安静状態が続くと、心身機能が低下してしまうことをいいます。結果的に筋力が落ちて動けなくなるばかりでなく、循環器や呼吸器、消化器、知的活動などすべての機能が衰えていきます。寝たきりから早く脱却できるようにすることが急性期リハビリの最大の目標です。

 一方、物をうまく飲み込めないのが嚥下(えんげ)障害です。むせたりして、誤って食道の手前の気管に飲食物が入り込むと肺炎の原因になることがあります。障害の程度に応じ、言語聴覚士や看護師が介助しながら嚥下訓練を行います。同時に口腔(こうくう)内を清潔に保つケアも欠かせません。

 こうしたベッドサイドでのリハビリの後は日常生活動作の活動を目的とした訓練になります。起き上がる。歩く。食事を取る―といったことで、家庭や社会に復帰する準備です。この段階になると、急性期リハビリは終了し、回復期、維持期へと移行します。

 リハビリで重要なのは、この流れを途切れさせず続けていくことです。途中でやめると元に戻ってしまいます。この流れを促進するのが「脳卒中地域連携パス」です。急性期病院、回復期のリハビリ病院、維持期の介護施設などがネットワーク化され、熊本県独自のリハビリを軸にした地域完結型の脳卒中診療体制を構築しています。有効に活用してください。