すぱいすのページ

「あれんじ」 2019年10月5日号

【四季の風】
第47回 虫の声

 「虫」や「虫鳴く」は、俳句では秋の季語。ただの「音」ではなくて虫の「声」とも言うように、私たちは昔から虫の声の風情が大好き。

よき酒もあり虫聞きに来よといふ  中正

 かつて平安時代、「虫聞き」は宮中の遊びだったが、江戸時代には春の花見と同様、人々は広尾や道灌山あたりに虫の声を聞きに行って遊んだ。こんな風流はとうになくなったかと思っていたら、以前一度高森町から、虫聞きの俳句会に来ませんかという話があった。月もきれいで、もちろん「よき酒」もあって、楽しい一夜だった。

 ところでこおろぎ、鈴虫、松虫などが美しく鳴くのは当然だが、なんと俳句では昔から、蚯蚓(みみず)や蓑虫(みのむし)も鳴かせて俳句に詠んできた。もちろんこれは空想で、実はジーッと鳴くおけらの声かもしれないが、これも、大地や宇宙の不思議の声を聞いて一句にする、いかにも大らかで楽しい遊びの世界である。

蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ     川端茅舎

蓑虫の父よと鳴きて母もなし       高浜虚子