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「あれんじ」 2016年10月1日号

【元気!の処方箋】
健康法としての歩くと走るの基本

 スポーツの秋。何か運動を始めたいけれど、何がいいのか、どうしたらいいのか…と、一歩が踏み出せない人も多いのではないでしょうか。

 そこで今回は、健康増進や筋力、体力づくりに良いと言われている「歩く」や「走る」の健康効果や、それを得るための正しい方法、気を付けたいことなどをお伝えします。取材・文=坂本ミオ

【はじめに】

 「歩く」運動はウオーキング、「走る」運動にはジョギング、ランニングがあります。ジョギングは、歩くことから発展した、呼吸が苦しくならない程度の駆け足。ランニングは、速いスピードで長距離を走ることを指します。

 健康増進を目的にするならば、まずはウオーキングかジョギングを選ぶといいでしょう。


【Q「歩く」と「走る」 どう違う?】

◎どちらも有酸素運動 大きな違いは足への負担

 ウオーキングは必ず片足が地面についていますが、ジョギングは両足が空中に浮いている時間があります。極端に言えば、ジョギングはジャンプして着地して…を繰り返しているようなものです。

 ウオーキングの場合、足にかかる負担が体重の1・2倍から1・5倍なのに比べ、ジョギングでは、2・5倍から3倍かかります。例えば体重60キロの人がジョギングすると、150キロから180キロの負担がかかり、それを何度も繰り返すことになります。

 どちらも有酸素運動ですので、その健康効果(後述)を得られますが、足やひざ、腰などに痛みがある人や肥満傾向の人、運動習慣がない人などは、まずウオーキングから始めることをお勧めします。


【Q「歩く」や「走る」は何にいいの?】

◎生活習慣病の予防・改善に 筋力・体力づくりに◎

 ウオーキング、ジョギングは、左右どちらかに偏ることなく上半身も下半身も使う全身運動です。脂肪や糖質を酸素によってエネルギーに変えながら行う有酸素運動ですので、
@心肺機能(全身持久力)の向上
A脚筋力の向上
B体脂肪(内臓脂肪)の減少
C高血糖の改善
D脂質異常症の改善(善玉コレステロールの上昇)
E高血圧の改善
Fストレスの解消・心のリフレッシュ
といった効果が期待できます。

 いわゆる生活習慣病の予防・改善や、体力や筋力を養うことで老化防止につながるものです。

 また、骨粗しょう症の予防・改善にもなります。骨は、その長軸に対してストレスがかかることで強くなります。ウオーキングやジョギングはまさに、うってつけの運動になります。

 ただし、健康効果をきちんと得ようと思うなら、食事の量や栄養バランス、適切な塩分摂取など食事や、運動量(強度、時間、頻度、期間)を併せて管理することが大事です。

 一方で、前述した足やひざ、腰の痛み、特に「ランナーズニー」と呼ばれるひざの故障を起こさないように、気を付ける必要があります。


【Q気を付けるべきことを教えてください。】

◎靴の状態をチェック、ケア 有効な水分補給を

 ひざを傷めないためにも靴は大事です。ウオーキング専用の靴を使用するのはもちろんですが、使っていると中敷きが劣化してきて、土踏まず部分をしっかり支えることができなくなります。定期的に中敷きを替えるなどケアをしましょう。

 水分摂取も言うまでもありません。喉が渇いてから飲んでも有効な水分補給にならないことが分かっています。「コップ1杯の水を飲んでから歩き始める」ことを習慣にしましょう。

 また、いきなり始めない、いきなり長い時間歩かないことも大事です。特に、肥満傾向や持病がある方などは、かかりつけ医に相談してアドバイスを受けることをお勧めします。


【Qウオーキングの正しいフォームや頻度、運動のタイミングは?】
図1

◎腰が回転するくらいの歩幅で無理せず継続を

●フォーム

【基本】

 基本的な注意点は図1の通りです。ただ、フォームにあまりこだわり過ぎず、自分に合った歩き方で歩きましょう。


【癖を確認】
図2

 歩くときの足の運びに目を向けると、図2のようになります。

●歩向角(足が向く角度)…………………15°程度
●歩隔(中心線と左右のかかとの間隔)…6p程度
●歩幅…身長などによって妥当な数字が変わる

 この3つが左右対称であるか、またそれぞれの数字が適当であるかをチェックしましょう。左右に大きな違いがある、あまりに歩向角が広がっている―など癖がある場合は、意識して矯正しながら歩くことが大事です。


【歩幅を広く】
【図3】
身長の高い人と低い人の歩行を比べると…
※身長によって歩幅は変わります。
上から見たとき、Bのように腰が大きく動くくらいの歩幅が望ましいです。

 効果的なウオーキングには、「歩幅を広く」とよく言われます。その理由は、大きく歩幅を取ることで腰の回転が生まれ、上半身を含め、より多くの筋肉を使うことができるからです(図3)。これが老化防止にもつながります。


●頻度

 厚生労働省では、1日30分週2回以上の運動を、1年以上継続している者を、【運動習慣者】と定義しています。まずは、これを一つの目標にするといいと思います。

 とはいえ、こだわりすぎる必要はありません。最も大切なのは、快適で気持ちのいい自分なりのペースで継続することです。


● タイミング

 ご自身の生活リズムの中で無理をしない時間帯に習慣化することが一番です。ただ、食後は2時間くらいおいてからの方がいいでしょうし、寒い冬場に朝起きてすぐに歩くといったことは避けましょう。

【最後に】

 ウオーキングは、運動量や強度を自分で調整できる運動です。フォームや頻度などについて理想をお伝えしましたが、それらにあまりとらわれることなく、「気持ちよかった」「また歩こう」と思えることが大事。ぜひ継続してください。


話を聞いたのは
熊本大学教育学部
生涯スポーツ福祉学科
博士(医学)
井福 裕俊 教授
・日本運動生理学会評議員
・日本体力医学会評議員
・日本生理学会評議員
・鹿屋体育大学客員教授