【四季の風】
第18回 麦の秋
「麦の秋」とは、麦熟るる頃をさす季語で、五月から七月ごろのことをいう。「麦の秋」は「麦秋(むぎあき)」あるいは「麦秋(ばくしゅう)」ともいうが、それぞれいい語感だ。私は長い間俳句を作っているが、これは若い頃はさほど気にとめなかった季語だ。しかし最近、年とともに好きにな った。小津安二郎に「麦秋」という映画があるように、どこかからりとして淡白な味わいのあることばである。 麦秋という季節を感じるにはやはり、金色に熟れた一面の麦畑とそれを渡る風を思えばいい。故郷のような景色とむせるような麦の熟した色と匂いの中に、どこか生の終わりの予感がする。私は、麦秋の景を思っただけで、成熟から凋落(ちょうらく)への予感の切ない思いで胸がいっぱいになる。 |
麦秋の濁りそめたる大河かな 岩岡中正 |
金色(こんじき)の鳥ひそみゐる麦の秋 中正 |