【講師】 |
『講演4 口腔ケアがもたらす効果とは』
専門的ケアで早まる健康回復 多職種連携で症状出る前に対応
「口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションによりQOL(生活の質)の向上をめざした科学であり技術」と、日本口腔ケア学会では定義されています。具体的には、検診、口腔清掃、義歯の着脱と手入れ、咀嚼(そしゃく)・摂食・嚥下(えんげ)のリハビリ、歯肉・頬(けい)部のマッサージ、食事の介護、口臭の除去、口腔乾燥予防などがあり、セルフケアと専門的な口腔ケアで成り立っています。本日は主に口腔清掃の効果について説明します。
全国11カ所の特別養護老人ホームの入居者366人を対象に2年間、肺炎発生率の調査が行われた結果、歯科医師と歯科衛生士による週に1度の専門的な口腔ケアと、うがいと毎食後の歯磨きの奨励により、口腔ケアには誤嚥(ごえん)性肺炎の予防効果があることが分かりました。
ほかにも、口腔ケアによって手術後の合併症が減り、どの診療科においても入院患者の在院日数が短縮し、インフルエンザ感染も減少した─などの報告があります。
さて、何らかの手術の前には必ず徹底的に口腔を清掃しますが、口の中は菌の培養器のような環境ですから、数時間もすると菌が繁殖し、口の中には粘り気のあるものがたくさん付着します。そのため術前の口腔ケアが不十分だと、術後に誤嚥性肺炎にもなるのです。
ある23歳の白血病の患者さんは、化学療法の副作用で粘膜炎を起こしました。口の粘膜のバリアが破綻して菌血症の危険もあり、出血と口の中の痛みも続いていました。そういう患者さんも専門的口腔ケアの効果もあり、一時退院ができるようになりました。
6歳の女児の場合は、脳腫瘍の手術の後、舌が口から出るほどひどく腫れて、舌が壊死する危険がありました。そこで柔らかいシリコン製のマウスピースを作製して口に入れ、開口器を使って1日数回、口腔ケアを行ったところ、舌の傷や腫れも治まりました。
83歳の女性の場合、骨粗しょう症治療薬の間違った服用法によって、口の中が荒れてご飯が食べられなくなり、救急搬送されました。口の中を見ると、粘膜がはげ、やけどをしたような状態でした。この薬は粘膜を痛めるので、飲む際には口内や食道などに薬がとどまらないように飲み込まなければならず、服薬後すぐは寝てもいけないのです。そこで、薬剤師さんに服薬指導をしてもらいました。
このように、口とは関係のない箇所の治療であっても、口の中に症状が現れることがあります。そこで私たちは、歯科口腔外科医や歯科衛生士をはじめ、専門の異なる医師や看護師、がん専門看護師やソーシャルワーカーなどと、多職種が連携するチームを組み、それぞれの専門性を持ち寄って患者さんの情報を共有しています。家族の声も聞き、口に症状が出る前から対応に当たる姿勢を大切にし日々、診療を行っています。