肥後医育塾公開セミナー

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平成29年度 第3回公開セミナー「歯科口腔外科医療の最前線」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部
歯科口腔外科学分野准教授
吉田 遼司(よしだ りょうじ)

『講演2 今すぐ始めよう、口腔がん検診!』
口腔がんのセルフチェック 早期発見のシステムも必要


   日本では口腔がんが年々増加傾向にあり、年間8000〜9000人が発症しています。熊本大歯科口腔外科を受診された口腔がん患者さんの状況としては、年齢別では60〜80歳代が多く、男女別では、一般には男性が女性の2倍多いのですが、熊本県では男女の差があまりありません。
 口腔がんができる場所は、舌53%、上下の歯肉30%など。舌では縁にできることが多く、白い部分と赤い部分が混じっている特徴があります。病気の進行度を示すステージでは、初期がんであるステージTが19%、Uが27%、進行した状態のVが12%、Wが34%。VとWを合わせると46%に上ります。最近はステージVとWの患者さんが増加していることが問題です。
 そこで、私たちが提案しているのが、口腔がんのセルフチェックリストです。▽お口の粘膜に消えない白い部分がある▽口内炎が2週間たっても治らない▽口内炎が出血しやすい▽口臭が強くなった▽お口が開けにくくなった▽飲み込みにくくなった▽首にしこりができた─など。後ろの項目に該当するほど、がんが進行した状態を示しています。
 治療については、治せる確率が高く確実なのは手術ですので、手術を中心に必要に応じて抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせます。腫瘍が大きい場合には、体の他の部分から組織を移植する「再建」が必要になり、負担は大きくなります。また、放射線治療は、がんと一緒に周辺の組織も焼くため、皮膚炎や粘膜炎と向き合うことになります。
 当大学の歯科口腔外科における口腔がんのステージ別5年生存率は、ステージTが94.5%、Uが77.3%、Vになると68.4%、Wは60.5%。進行度に応じて生存率が低下します。そのため、がんを早期に発見し、早期に治療することがとても重要です。
 口腔がんによる死亡数は、先進国の中で、日本だけが増加しています。例えば、米国の口腔がん死亡率は日本の半分以下の19.1%です。それは、米国では定期的な口腔がん検診が定着し、検診によって早期にがんを発見し、早期に治療できているからと考えられています。
 そこで当大学では、がんが疑われる方の口の写真を歯科医院からメールで受け取り、専門医への受診の必要性を判定する「口腔粘膜疾患鑑別支援システム」を開発し、運用しています。
 ただ現在のところ、本県には口腔外科専門医が常駐する施設は、熊本市以外には水俣市、人吉市、阿蘇市にしかなく、普及しづらい状況です。これは地域が抱える問題でもあります。
 こうした問題を皆さんにも共有していただいて、歯科医院の定期受診と、口腔がん検診の普及にご理解をいただきたいと思います。