【講師】 |
『講演1 お口の中と全身の病気の深いつながり』
口腔フローラの乱れから病気へ 日ごろから「不健口」に注意を
むし歯と歯周病(歯周炎)は、口の中の二大疾患といわれます。歯周病は歯と歯の周囲の組織である歯肉(歯茎)などに起こる慢性の炎症。しかも、成人の8割に見られる生活習慣病です。その原因は、歯垢(しこう)の磨き残しによる細菌の繁殖なのです。
口の中の細菌は約700種以上もあり、歯垢1グラムには約1000億個の細菌がいます。細菌にとって口の中は、栄養豊富で、適度な湿度と温度に保たれ、歯があることで住み着きやすい複雑な形状をしています。つまり、口の中は細菌にとって高級リゾート地なのです。
顕微鏡でその常在細菌を見ると、花畑のように見えることから、細菌が口の中に住み着いた状態を「口腔フローラ(細菌叢(そう))」と呼びます。むし歯や歯周病が進行すると、この口腔フローラの状態が乱れます。
九州大学歯学部が福岡県で行った大規模な疫学調査によると、口腔フローラの乱れが、歯周病の悪化や肥満、肺炎と関連があることが分かっています。
歯周病になると、歯茎が腫れ、歯と歯茎の間の歯周ポケットが深くなって、歯垢や歯石がたまりやすくなります。進行すると歯を支えている骨が吸収され(壊れ)、歯が動くようになります。さらに歯茎から出血し、その傷口から細菌が血管に入って全身に流れて行きます。
歯周病と心臓病の関連性についての研究では、冠動脈に問題がある60歳以下の患者さんは、歯周ポケットが深く、骨の吸収が進んでいることが分かりました。糖尿病との関連では、歯周病が悪化するとインスリンの効きが悪くなるため、血糖コントロールが不良になることが分かっています。また逆に、糖尿病の方は歯周病になりやすいという「負のスパイラル」があることも報告されています。
また、歯周病の妊婦は、子宮の収縮を早め陣痛を促進する物質が血管に入ると、早産や低体重児出産につながります。そのリスクは健康な妊婦に比べ3.6倍もあります。その他、歯周病になると、かむ力の低下が脳の認知領域へ影響し、食べ物の変化による栄養状態の変化と合わせ、認知機能の低下につながる可能性があります。
このように、口の中で炎症が起こると、炎症を起こすさまざまな物質が血液を流れ、脳血管障害や心臓病、糖尿病の原因となり、妊婦の場合は低体重児の出産にも関係します。さらに、肺炎、関節リウマチ、非アルコール性脂肪肝炎、慢性腎臓病、がんなどとも関係性があることが分かっています。
口の健康と全身の健康は深くつながっています。むし歯や歯周病による口腔フローラの乱れは、不健康=「不健口(ふけんこう)」と考え、重症化しないようにすることが大事です。「不健口は万病のもと」と、気を付けてください。