【講師】 |
『講演C 緩和ケアってなんだろう』
緩和ケアは終末期医療ではなく苦痛を和らげるための全人医療
私が医学部を卒業したのは1993年でした。当時の緩和ケアの定義は、「治癒を目指した治療が有効でなくなった患者」に対する医療行為で、「ターミナルケア(終末期医療)」といいましたが、その後、定義は改訂されました。WHO(世界保健機関)が2002年に出した緩和ケアの定義は次の通りです。
「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメント対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を改善するアプローチである」
ここには、いくつも注目すべき言葉が含まれています。まず「生命を脅かす疾患」。これは、がんだけでなく心臓病や慢性肺疾患、神経の難病も含まれます。緩和ケアの対象は「患者」だけでなく「その家族」も含まれます。
そして、「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を改善するアプローチである」とされています。「ライフ」を「生活」と訳すか、「命」あるいは「人生」と訳すか、それぞれによって、何の質を改善するアプローチなのかが変わってきます。「和らげることで」とあるのは、心身の苦痛を和らげることを目指しています。そして、それは「早期に発見し」とあるように、緩和ケアは今や終末期医療ではないのです。
緩和ケアの目的は、病気になった人に対し、その検査や治療のみならず、体や気持ちのつらさ、治療費や療養費、日常生活、仕事や家族への影響など、多種多様な心配事に応えることです。
ただ、それらを医療者一人が担当することは不可能です。そこで、多数の職種が連携する緩和ケアチームで対応するようになりました。
緩和ケアを推進するために、患者とその家族、医療者と緩和ケアチームメンバーが、患者の過去、現在、未来の病状、治療や予後について、共通理解を図る。そして、患者は自分の病状を正しく理解して、その理解を医療者に表明することが大切です。
各患者には家族の中で役目があり、それに応じた価値観も絡んできます。その価値観を踏まえ、常に治療を考え直していく必要があると思います。
そうした関係者間の意思疎通を助けるツールとして、「私のノート」があります。体調の記録や疑問を書き込むものです。これに関しては、熊本大学医学部附属病院・熊本県「私のカルテ」がん診療センター、【電話】096(373)5763まで、お問い合わせください。
昨年12月には「がん対策基本法」が改定され、その中に緩和ケアの定義が明記されました。今後は緩和ケアへの理解が深まることを期待しています。