肥後医育塾公開セミナー

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平成29年度 特別版 熊本地震シンポジウム2017公開セミナー エコノミークラス症候群

【講師】
熊本日日新聞社 編集局 文化生活部長
本 文明(たかもと ふみあき)

『講演D 熊本地震報道 伝えたい 救いたい』
分かりやすさが使命


   熊本地震が発生し、熊日は総力戦で取材に当たりました。前震翌日、避難者が数万人にも及ぶ状況から、エコノミークラス症候群の予防が必要と直感し、イラストを使った啓発記事などを掲載しました。
 しかし、残念ながら本震から3日後、「エコノミークラス症候群で車中泊の女性死亡」という事実を、他紙に先駆けて報道する結果になりました。熊日はその後も、県内外の医師や研究者、行政機関などが連携して結成した「熊本地震血栓塞栓症予防(KEEP)プロジェクト」の取り組みなどを報道しました。エコノミークラス症候群に関する各種記事は地震発生以降、約160件に上ります。
 災害時は、命と健康を守るために段階に応じた報道が求められます。被災直後は、直接被害を受けた方々の安否や医療機関の対応、避難生活に役立つ情報などが必要とされます。続いてエコノミークラス症候群や心不全といった循環器系疾患の予防、口腔ケア、さらには精神的なストレスへの対処法など、多岐にわたり掲載してきました。どれも専門的な内容ですが、分かりやすく伝えることが新聞の使命だと考えています。
 熊本地震で犠牲となった方々は現在、家屋の倒壊などによる直接死が50人、震災関連死が167人です。震災関連死は、避難生活による体調の悪化や医療機関で必要な治療が受けられなかったことなどが原因です。熊本地震では、関連死が直接死の3倍を超えているのが特徴です。
 震災関連死は市町村が認定しますが、情報公開は大きく制限されました。行政に情報公開を請求しても入手できる情報はわずかです。震災関連死を防ぐには、情報公開を進め、情報に基づいて関係機関が対策を検討するとともに、私たち一人一人が対処法を考えることができるようにすることも必要ではないでしょうか。
 地震発生直後は被災地に全国からマスコミが殺到し、取材が過熱するなど、われわれ報道の側にも課題が残りました。私たちは報道機関としてだけでなく、熊本に生きる被災者としても、熊本地震を息長く、風化させないよう伝え続けていかなければならないと考えています。