肥後医育塾公開セミナー

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平成29年度 特別版 熊本地震シンポジウム2017公開セミナー エコノミークラス症候群

【講師】
新潟大学医歯学系呼吸循環外科講師
榛沢 和彦(はんざわ かずひこ)

『講演B 災害後のエコノミークラス症候群予防のための弾性ストッキングまたは着圧ソックスについて〜新潟県中越地震からイタリア北部地震、熊本地震までの経験から〜』
運動と水分補給で予防を


   2004年の新潟県中越地震で、妻をエコノミークラス症候群で亡くした男性が、病気のことを「もっとよく知っていればよかった」と悔やむ姿を目にしました。私は仲間と共にエコノミークラス症候群に関する検診を続けています。東日本大震災やイタリア北部地震、そして熊本地震の被災地にも入りました。
 検診では、ふくらはぎに超音波エコーを当て、血栓ができていないかを調べます。また、採血検査を行って、総合的に危険度を判定します。検診をすると、ほぼ10人に1人に血栓が見つかりますが、小さいままで、ふくらはぎにとどまっていれば、何も怖くありません。
 しかし車中泊や座ったままなど、窮屈な姿勢を長時間続けていると、ふくらはぎの血栓が伸びます。これは入院時も同じです。また、体質的に血栓ができやすい人もいます。
 そこでエコノミークラス症候群の危険度が高い人には、血栓を溶かす薬を飲んでもらいます。または医療用の弾性ストッキングや、ドラッグストアなどで売られている着圧ソックスをはいてもらいます。弾性ストッキングは、血栓を減らす医学的根拠(エビデンス)がありますので、ぜひ避難用品の中に加えてください。
 エコノミークラス症候群の予防は、まず血液の流れを良くすることです。特にふくらはぎのヒラメ筋という筋肉を動かすと効果があります。立った姿勢でかかとを上げ下げしてください。また、腕を上に引き上げるだけでも静脈の血流量が増えます。車の中などにいて、立てない場合は、足の全ての指を折り曲げ、足じゃんけんのグーをつくることでもヒラメ筋は動きます。そして、血液を濃くしないよう、水分も十分取ってください。ただし飲酒は、脱水になりますので、注意してください。
 また避難所では、段ボールベッドなど、簡易ベッドの使用をお勧めします。内閣府の避難所運営ガイドラインには、私たちの訴えが届き、このほど簡易ベッドの導入が要件に入りました。
 熊本地震でもエコノミークラス症候群による死者が出てしまいました。さらに予防啓発活動を進めていきたいと思っています。