肥後医育塾公開セミナー

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平成29年度 特別版 熊本地震シンポジウム2017公開セミナー エコノミークラス症候群

【講師】
熊本地震シンポジウム2017実行委員長、熊本大学医学部附属病院循環器内科
坂本 憲治(さかもと けんじ)

『講演A 地震後に増える心血管病〜熊本地震で発生したエコノミークラス症候群とは〜』
避難では車中泊に要注意


   私は3月まで熊本市民病院に勤務していました。昨年4月16日未明の本震後、病院の建物が倒れる危険性があり、310人の入院患者さん全ての転・退院を迫られました。その3日後の19日には、避難して車中泊をしていた51歳の女性が、エコノミークラス症候群で亡くなったというニュースが飛び込んできました。
 エコノミークラス症候群とは、血の塊(血栓)が肺に詰まる病気です。血液は心臓から動脈に送り出され、脳や内臓、手足にいきます。そして、汚れた血液が静脈を通って心臓に戻り、それが肺に運ばれ、酸素と混ぜ合わされてきれいになり、再び心臓から全身に送り出されます。人の体は、これを1日に10万回繰り返しているのです。ところが、「血の流れが滞る」「血管の壁が傷つく」または、「血が固まりやすくなる」と、ふくらはぎの血管内に血の塊ができます。その一部および大半が突然に切れ、肺に流れて詰まるのです。
 長時間のフライトや車中泊などで同じ姿勢を続けていると、血の流れが滞ります。睡眠薬の服用により姿勢を変えずに熟睡することも、これを助長する可能性があります。足などにけがをすれば血管が傷つきます。水を飲まずにトイレを我慢することは脱水につながり、血が固まりやすくなります。
 済生会熊本病院には本震後、エコノミークラス症候群の患者さんが次々と運び込まれました。8割が女性で、車中泊をしていた方ばかりです。症状が起こった時間帯は、朝5時〜8時の間。おそらく、血の流れが滞っていた状態で車から出た直後、血管内で血の塊が切れ、血栓が肺に詰まったと思われます。
 災害時には、急性心筋梗塞や心不全、不整脈や、たこつぼ型心筋症、脳梗塞や脳卒中なども増えます。不安や恐怖、緊張、けがを負う、眠れないなど、災害後は精神的にも肉体的にもストレスがかかります。そのため、高血圧や糖尿病、心臓病など持病の悪化も増えます。そこで災害時は、お薬手帳を持って避難する、体を清潔に保つ、水分を取る、適度な運動をする、車中泊をできるだけ避ける、弾性ストッキングを着用する─などを心掛けることが大事です。