【講師】 |
『講演B どうする? こどもの食物アレルギー〜「食べさせない」のではなく「食べさせる」には?〜』
診断は「食べて症状が出るか」
アレルギーは、細菌やウイルスなど病原体から体を守るための免疫という働きが、食べ物や花粉などに過剰に反応して起こります。食物アレルギーのほとんどはIgEという抗体による反応です。原因となる食べ物を食べると、この抗体が反応し、食べた直後から、多くは2時間以内にじんましんなどの症状が出ます。アナフィラキシーといって、息が苦しくなり、血圧が下がり、最悪の場合は命に関わることもあります。
原因食品であっても 可能な限り食べて
食物アレルギーの原因食品は、卵、牛乳、小麦粉が7割を占めます。パンやお菓子などの原材料として使われることが多く、一目では卵や牛乳が入っているとわからないため、子どもたちは「誤って食べるかもしれない」、誤食の危険にさらされています。食物アレルギーの診断は、特定の食物を食べて症状が出ることを確認することによります。血液検査や皮膚テストによる「特異的IgE抗体」の証明は診断に必要ですが、この陽性だけでは診断となりません。
そこで、病院で原因食品を少しずつ食べてみる「経口食物負荷試験」を行います。症状が出ても、病院ならすぐに処置できるからです。負荷試験では、どの食品にアレルギーがあるかを診断するだけでなく、原因食品であってもどの程度食べられるかを検討します。
食物アレルギーがある場合、原因となる食べ物を食べない方がいいかというと、実はそうではありません。昨年改訂された「食物アレルギー診療ガイドライン2016」は、食物アレルギー診療の基本である「必要最小限の除去」を推し進め、原因食品であっても食べられる限りは食べさせることを推奨しています。除去食は栄養学的にはもちろん、食生活の質の点でも問題です。1滴も原因食品が混じらない完全除去食が必要な例は少なく、少しでも食べられると食事の幅が広がり、誤食の不安も軽減されます。最近の研究では、原因食品でも可能な限り食べることで、腸の免疫が耐性を高める方向へ働く可能性(経口免疫寛容)も示されています。
アレルギー発症予防に 肌の保湿と清潔維持を
食物アレルギーに確立された予防法はありません。ただ、皮膚を大事にすることはとても重要です。最近は、傷んだ皮膚を経由してダニや食べ物が体の中に侵入することでアレルギーが発症する「経皮感作」という仮説が強く支持されています。実際に、食物アレルギーのある子どものほとんどは、生後2、3カ月の時点でアトピー性皮膚炎を発症しています。乳児期から肌を保湿し、清潔にしてください。
いったん食物アレルギーを発症すると、誤食の危険がつきまといます。通っている保育園や学校、病院と、症状が出た場合の対策を前もって話しておきましょう。万一、アナフィラキシーが起きたらアドレナリン筋注が必要です。できるだけ早く投与しなければならず(30分以内)、リスクの高い子どもには、自己注射薬の処方を検討します。最近は多くの学校で、この注射薬を含めたアナフィラキシー対策が進んでいます。集団生活では給食などもあり、誤食の不安が高まります。完全除去が必要か、少しなら食べられるかを、病院で見極めておくと安心です。
周囲の連携・協力で、食物アレルギーの子どもたちが楽しくご飯を食べられることを望みます。