肥後医育塾公開セミナー

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平成28年度 第3回公開セミナー「健やかな子どもを育てる」

【講師】
久留米大学医学部小児科 主任教授
山下 裕史朗(やました ゆうしろう)

『講演@ 発達障害の子どもをうまく育てるコツ』
特性理解し、肯定的受け止めを


   2012年の文部科学省調査によると、児童生徒の7%が発達障害を持っていることが分かっています。最近は発達障害を「障害」といわずに、神経発達症と呼びますが、その症状には、コミュニケーションなど社会的適応が苦手な自閉スペクトラム症(ASD)、行動のコントロールが苦手な注意欠如多動症(ADHD)、読み書きが苦手な限局性学習症(SLD)、円滑な運動が苦手な発達性協調運動症(DCD)、チック症などがあります。

親を孤立させない適切な社会的支援を
 日常の生活に困る神経発達症の原因には、遺伝的要素に加え、愛着形成の不十分さや虐待を受けるなど幼少時の養育の在り方といった、環境・社会的要素があります。また神経発達症は、ASDとSLDが併存するなど、複数の症状が併存するケースが一般的です。思春期を迎えると、反抗挑戦性や素行の悪さ(外在化障害)が表れたり、気分の落ち込みや不安(内在化障害)から、うつになることもあります。
 そこで就学前、遅くとも小学校低学年までに神経発達症の特性に気付き、適切な対応や治療(介入)を行う必要があります。
 7歳から水泳を始め、五輪メダル獲得数歴代1位となった米国の水泳選手、マイケル・フェルプスもADHDです。母親がやることのリストを作成し、本人がやれたら褒めていたそうです。子どもの才能を見抜き、それを支えた周囲の環境が非常に良かったのだろうと思います。
 その一方で心配なことは、子どもに日々向き合う多くの母親たちが孤立することです。どうか、お母さんを責めないで、頑張りをねぎらい、努力を褒めるようにしてください。困難な状況を克服する力をレジリエンスといいますが、神経発達症の子どもを養育する親のレジリエンスを高めるには、次の3つの要素が重要であることが分かっています。
 1つ目は特性理解で、子どもの得意なことや不得意なことへの理解です。いつ・どこで・どんな問題行動が出るか、どんなきっかけで起こるか、問題行動の代わりとなる適応的な行動は何かなどを理解します。2つ目は肯定的受容で、子どものやり方を受容することです。3つ目が社会的支援で、保健所や療育センターなどでの公的支援や周囲の情緒的なサポート、養育者が自己評価のための情報を入手できることなどです。さらに、養育者自身が神経発達症の特性を持っているケースでは、養育者を含めた支援が必要になります。

多様な実体験積ませ子の自己肯定感高めて
 以下は、しっかり働ける若者になるために重要なことです。@学校で遅刻や欠席がないA1日を通して働ける体力があるBあいさつや返事、お礼などができ、できないことは周囲に助けを求められるCルールを守れるD清潔や身だしなみへの意識がある─。これらができるようになるためには、家族に感謝されるような手伝いを幼いころからさせてください。また、神経発達症の人は真面目な人が多いので、職場で一生懸命に働き、燃え尽きてしまうことがあります。そのため、余暇などでのストレス発散法を持つことも大事です。
 認めてくれる人が周囲にいて、その子の才能や、好きなことを生かすことができるよう、褒める3に対しる1の割合で支援するようにしてください。いじめられるなどネガティブな体験が重なると自尊感情が低い子になってしまいます。生活スキル、共感や協調性、自発性を育てるようにしてください。そのためには、実体験としてさまざまな経験を重ねることが大切です。