肥後医育塾公開セミナー

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平成28年度 第1回公開セミナー「認知症」

【講師】
桜十字病院看護部副看護部長
今村 加代

『やさしく見守る―認知症患者さんへの心遣い』
受容・共感的心遺いで対応を


   認知症になると、もの忘れがひどくなり、判断力・理解力が衰え、場所や時間が分からなくなります。早期認知症の場合は、お金の計算が苦手になりお札でしか買い物をしない、冷蔵庫に同じものばかり詰め込み、印鑑などまで入れる、尋ねられたことに自分で答えられなくなる─などの兆候が現れます。
 認知症の症状には、徘徊(はいかい)・攻撃・暴言などの行動、不安・抑うつ・幻覚・妄想・怒りなどの心理があり、これらが介護者を悩ませます。しかし、こうした症状は、介護者の優しい心遣いや介護の仕方によって改善が期待できるケースもあるのです。
 その心遣いとは、まず、介護する人が認知症を受け入れることです。そして、患者本人の意思と感情を大切にすることです。認知症の人は何も分からないと思わないでください。自分が家族に迷惑をかけていることも十分に分かっています。判断もでき、選ぶ権利もありますので、本人の意思決定を尊重してください。同じことを何度繰り返しても新鮮に対応してください。また、低活動性の人ほど心配りが必要になります。
 認知症介護では、なじみの人間関係をつくることが大切です。それが本人の安心につながり、症状の進行を緩やかにします。認知症になると家族の顔さえ忘れてしまうこともありますが、その一方で、よく来てくれるヘルパーさんを自分の娘だと思ってしまうこともあります。家族の方は10分でもいいので、毎日行って顔を見せてあげてください。少しずつでも、絶えず刺激を与えることが大切です。
 また、共感的姿勢で安心感を与えることも重要です。頭からの否定や説得が逆効果になります。本人の感情・体験を否定せず、説得より本人の納得を図ってください。
 本人の訴えは、言葉にして返します。例えば、「財布を盗られた」と言われたら、「財布を盗られたんですね」と返し、「置き忘れたかもしれませんね」と、一緒に探すようにしてください。訴えが頻繁なら、代わりの財布を用意しておく手段もあります。これはだますのではなく、本人の感情の体験に添って納得を図る対応なのです。幻視で「そこに虫がいる」と言われれば、その場所を見に行き、「殺虫剤をまいておくから大丈夫ですよ」と、消臭スプレーなどを使って対応してください。
 介護者は協力者・支援者として、本人を尊重する姿勢を示すことが大切です。認知症だからと安易に対応すると、本人はすぐにそれを感じ取ります。相手と目を合わせてよく聴き、どの程度深刻に思っているのか、しっかり観察してください。
 認知症の患者さんに対し、受容的・共感的なやさしい心遣いで対応することで、症状の改善が期待できると思います。