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『≪講演A≫ストレスチェック時代の職場のメンタルヘルス対策』
職場のストレスチェックを 労働環境改善のきっかけに
ストレスが原因とみられる従業員の心の不調が、多くの職場で顕在化しています。産業医や産業保健師は、個人の健康状態と労働環境の適応化を図るために、次の2つの側面をチェックします。一つは人的な面で、個人のストレス対処能力、ストレスと職場環境に関する認知、ストレスに耐えられる生活習慣など。もう一つは仕事・職場環境の面で、ストレスの度合い、支援の程度、仕事の報酬などです。
生活習慣は心身の健康のためにとても大事な要素です。@適正な体重を維持するA朝食を食べるB間食をしないC過度の飲酒をしないD定期的に運動をするE喫煙をしないF適正な睡眠をとる(7〜8時間)─といったことが、ストレスへの耐性をつくることにもつながります。
一方、支援では職場の同僚や上司、家族の支えが大事なのは言うまでもありません。社会における人々の信頼関係などを表す「ソーシャルキャピタル」(社会関係資本)という概念がありますが、支援の向上を図るためには互いに助け合い、ほめ合うなど、信頼関係や結びつきを強める環境づくりが重要です。
報酬には給与やボーナス・昇進といった「外発的報酬」と、仕事に対する主体性や挑戦、意義・価値の認識、他者との共感や信頼関係などの「内発的報酬」があります。外発的報酬は原資に限りがあるので、今後は内発的報酬を主体とする職場づくりが目標になるはずです。
心の健康度を理解するため、仕事の活動水準(頑張りの度合い)を縦軸に、仕事への態度・認知の快適度を横軸に表した図を見てみましょう(一覧画像≪講演A≫図参照)。仕事中毒と呼ばれる「ワーカーホリズム」、仕事への意欲がなくなった「バーンアウト(燃え尽き症候群)」、仕事ができなくても心地よい「リラックス」、ストレスをあまり感じず仕事への活力が高い「ワーク・エンゲイジメント」に分けられます。日本人はワーク・エンゲイジメントが欧米に比べ低いといわれますので、今後は働き方の見直しが必要になるでしょう。
職場のメンタルヘルス対策では、精神疾患による休職者の職場復帰支援も大事になります。昨年12月に新しい労働安全衛生法が施行され、50人以上の職場で、心理的負担の程度を把握するためのストレスチェックが義務づけられました。結果は見やすいレーダーチャートで表され、面接指導の要否などが表示されます。
プライバシー保護の観点から、検査結果は事業者に提供しないことになっていますが、職場単位で集計したデータは活用でき、日本の一般的な職場と比較したストレスの程度を確認できます。職場改善の計画、実行、評価・検討につなげることが期待されます。