肥後医育塾公開セミナー

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平成27年度 第2回公開セミナー「感染症新時代」

【講師】
国立国際医療研究センター 国際感染症対策室 医長
加藤 康幸

『〈講演A〉エボラ出血熱 〜西アフリカにおける過去最大の流行から学ぶ〜』
対策のための4つの柱を基本に 流行収束に向けて国際的に支援


   アフリカ大陸の中央に広がる熱帯雨林のジャングルが、エボラウイルスのふるさとです。ウイルスの宿主は、カラスほどの大きさのオオコウモリといわれています。今回のエボラ出血熱は、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国の国境付近で発生しました。
 エボラ出血熱は1976年に初めて発見され、2013年までに約2000人が罹患(りかん)しています。それが昨年は1年間だけで約2万人、これまでに2万8000人以上に上ります。

■国際社会の取り組み
 この新興感染症の流行がピークに向かう2014年の夏、私は西アフリカのリベリアに行きました。エボラ出血熱の患者で一番多いのは発熱と下痢が目立つケースです。次にインフルエンザに似た症状で、高熱、関節痛を示すケース。後は意識障害、多臓器不全、腎臓などが障害を受けて予後が悪いケースなどです。
 潜伏期間は最長21日間ですが、ウイルスが侵入して10日前後で発症する人が多いようです。発熱、頭痛、筋肉痛などの症状に始まり、数日すると典型的な症状であるおう吐や下痢が目立つようになります。この時期には体内でエボラウイルスが増殖し、血液検査で陽性になります。症状が一番重いのは、発病して7〜10日といわれます。
 エボラ対策には4つの基本的な柱があります。1つ目は、患者を隔離して家族などへの2次感染を防ぐこと。2つ目は、積極的疫学調査を行い患者に接触した人を把握しておくこと。3つ目は、安全かつ尊厳ある埋葬で、遺体に触れずに感染を防ぐこと。4つ目は社会啓発で、感染を正しく恐れ予防の行動を促すことです。
 国連では、平和と安全への脅威を討議する安全保障理事会の場で、流行拡大防止の対策が話し合われました。現地では、治療に「国境なき医師団」、積極的疫学調査にアメリカ疾病予防管理センター(CDC)、遺体の埋葬に国際赤十字、住民の啓発にユニセフ(国連児童基金)などが関わりました。

■医療従事者の現地での奮闘
 さて、ここでエボラ出血熱の感染予防のポイントをおさらいしましょう。感染経路は主に、血液や体液に直接触れることです。インフルエンザのように、飛沫(ひまつ)で感染を起こすものではありません。特に吐しゃ物や便には、ウイルスがたくさん含まれているので、適切に扱わなければなりません。
 治療には点滴などの基本的な治療が有効です。助かる人は2、3週間で回復します。現地では疑い患者に抗生物質やマラリアの薬を飲ませて、治療の反応を見ることも行われていました。予防面では、医療従事者が注射針を誤って刺してしまうなどの事故に備え、日本の製薬メーカーの抗インフルエンザ薬がエボラ出血熱向けにも一部の国で使われています。
 感染から運良く回復した人も、そのほとんどは家族を亡くし失意の中にいます。心のケアはもちろん、ウイルス保持者として差別を受けないようにしなければなりません。また、エボラで親を失った孤児の増加も問題です。さらに、エボラ流行の時期から学校が長く閉鎖され、子どもたちは教育を受ける機会も失いました。
 流行の収束には、まだ時間が掛かるでしょう。エボラが国内で流行しないよう、日本では万全の体制が整えられていますが、西アフリカ諸国では現地の医療従事者が感染の脅威にさらされながら奮闘していました。そのことも皆さんに知ってもらいたいと思います。