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『講演@ 急増する前立腺がん』
加齢、遺伝、食生活などが危険因子 PSA値が診断・治療の目安に
前立腺がんは2011年時点で、男性が罹患(りかん)するがんの中で、胃がん、肺がん、大腸がんに次いで多いがんとなっています。近年は急増し、近い将来第2位になると予想されていますが、熊本県は全国平均より高く、既に第1位となっています。
前立腺は男性だけにある臓器で、膀胱(ぼうこう)の真下にあります。クルミ大の大きさで、尿道を取り巻いています。
前立腺がんの危険因子として、加齢、遺伝、人種、食生活などが挙げられます。例えば遺伝因子では、親兄弟などの近親者に発症者が1人いる人は、いない人の2倍、2人いると5倍、3人いると11倍と、リスクが高まります。また、脂肪が多く緑黄色野菜が不足しがちな食生活を続けると、がんのリスクを高めます。
がんの初期は自覚症状がないので、前立腺から血液中に分泌されたPSA(前立腺特異抗原)の値=前ページ講演@図=が目安になります。PSAは「前立腺がんを見つけるための腫瘍マーカー」であり、診断だけでなく、治療効果の参考にもなります。基準値は4ng/ml(1ミリリットル当たりナノグラム)以下ですが、加齢も危険因子の一つであることから、50歳未満の若年者では、より低い基準値(3ng/ml以下)が用いられます。
基準値を超えた場合は、泌尿器科の専門施設で検査を受ける必要があります。超音波で前立腺の大きさを確認し、MRI(画像診断)や直腸診(お尻の穴から指を入れて触診すること)で、前立腺にがんなどの異常がないかを確認します。もしがんが疑われた場合は、前立腺に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で検査します。その結果、がんの有無、悪性度(5段階)、がんの広がりが分かります。
がんが局所に限局されていれば、手術療法や放射線療法が選択されることが多く、がんが全身に広がっている場合は、ホルモン療法が必要になります。
手術には開腹と腹腔鏡がありますが、熊大病院では医師がロボットを操作して腹腔鏡手術を行っています。小さな切り口で済む(低侵襲)ので、出血や術後の痛みが少ないというメリットがあります。また、ホルモン療法は前立腺がんの進行が男性ホルモンと密接な関係にあるため、注射と内服薬で男性ホルモンの働きをほぼゼロにし、がんの進行を抑制します。その他、昨年から新薬や新しい抗がん剤が使用できるようになり、治療の選択肢が増えてきています。
まずは、住民健診や人間ドックでPSA値を測定し、異常がないかどうかを確認することが大事です。